ロシア連邦北西部,同名州の州都。プスコフ湖に流入するベリカヤ川の河畔に位置する内陸都市。人口20万0080(2004)。バルト海によって西ヨーロッパと結ばれていた中世ロシアの大きな商業都市で,13~16世紀にはノブゴロドとともにロシアを代表する対ハンザ貿易の窓口であった。また13~15世紀には,ロシアの〈自由都市〉とも呼ばれる共和政体の都市国家として発展し,政治的にもその後のロシア史上に例を見ない独自の一時代を画した。プスコフは古くから東隣のノブゴロド市と深い結びつきをもち,12~13世紀には貴族共和政都市国家として発展しつつあったノブゴロド市の属州付属都市の一つに数えられた。しかし13世紀中葉以降,ノブゴロドからの政治的自立化傾向を強め,1348年の条約で最終的に独立した。これ以後ワシーリー3世によってモスクワ大公国に併合される1510年まで,プスコフは独自の領土と属州都市とを支配し,ノブゴロドと同じベーチェをもつ共和政都市国家として存続する。公権力は存在したがその権限は著しく制限され,実際上の執行権力を握る市長官その他の市官職はすべてベーチェで選挙された。市の官職と政治的実権は貴族層に独占されたが,ベーチェを拠りどころに都市民衆の政治行動も活発であった。プスコフを中心に起こった14世紀のロシア正教会に対する異端〈ストリゴリニキ〉の運動も,都市民衆のそうした活力を土壌としている。14~16世紀を通じて見られる盛んな年代記記録も,〈プスコフ派〉の絵画と建築に代表される独自の都市文化も,この時代のプスコフ市民の活発な経済活動や旺盛な政治意識と切り離せない。分裂したロシアの再統一を進めるモスクワは,15世紀末にまずノブゴロドを吸収し,続いて16世紀初めにプスコフも併合した。併合後のプスコフは経済的にも軍事的にもなお西方国境の都市として重要な機能を果たし続けたが,ペテルブルグ建設とともに商業上の意義を失い,18世紀末における白ロシア(現ベラルーシ)のロシア併合とともに軍事的機能も消失した。
第1次・第2次両世界大戦時ともドイツ軍に占領され,特に第2次大戦では相当の破壊をこうむったが,戦後は著しい復興をみせ,レニングラード州の経済圏に接する地方産業都市として発展しつつある。
執筆者:松木 栄三
プスコフの美術はノブゴロドの文化を基盤に発展したが,教会堂建築では,スビャーティ・イワン・プレドテーチ教会(12世紀)のように,複数の鐘を横に並べた鐘楼を組みつける親しみ深い小堂形式を早くから育てている。ミロシスキー修道院のスパソ・プレオブラジェンスキー教会(12世紀)にはギリシア人の指導による同時代の豊富な壁画が残されており,スニェトゴルスキー修道院でも14世紀の注目すべき壁画群を見ることができる。同地で制作されたイコンは,背景に黄色やときには緑色が用いられるなど,やはり独自の傾向が認められる。プスコフ歴史美術博物館蔵の《聖ニコラウス》(14世紀)や《聖ゲオルギウス》(16世紀)などにそれを見ることができる。
執筆者:高橋 榮一
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ロシア連邦北西部、プスコフ州の州都。ロシアの古都で、観光都市として知られる。人口20万2900(1999)。ベリーカヤ川沿岸に位置する鉄道の分岐点。年代記の903年に現れる古い町で、交易の中心地として栄えた。1240年ドイツ騎士団により占領されたが、のち独立し、13世紀にもっとも栄えた。14世紀ハンザ同盟に加入したが、16世紀初めモスクワ大公国に併合された。市内にはクレムリン(城塞(じょうさい))、トロイツキー大聖堂など12~18世紀の建築記念物が多数保存され、訪れる観光客が増えている。工業の発展も目覚ましく、電話、モーター、電気機械、合成繊維設備製造、食品工業が主要なものである。教育大学、歴史・芸術博物館、ドラマ劇場、人形劇場がある。
[中村泰三]
…ロシア連邦北西部のプスコフ州とエストニア共和国との境界をなす大湖。水理学上は相接する3湖がシステムをなすためチュド・プスコフ湖Chudsko‐Pskovskoe ozeroと呼ぶ。…
※「プスコフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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