改訂新版 世界大百科事典 「ミカドアゲハ」の意味・わかりやすい解説
ミカドアゲハ
Graphium doson
鱗翅目アゲハチョウ科の昆虫。アジアの熱帯の山地に分布し,対馬南部が分布の北限となる。無尾の中型のチョウで,開張は7cm内外。アオスジアゲハに似ているが斑紋はより複雑,裏面に銀色の光沢がある。飛び方もアオスジアゲハよりやや緩やかで,野外でも一見して区別できる。紀伊半島以西の本州の暖地,四国,九州に分布するが,食樹を中心とするきわめて狭い範囲に限って見られる。本土では年1回,5月に発生し,部分的に第2化つまり夏型が7~8月ころ羽化する。南西諸島では年に3~4回の発生が見られるほか,翅の明色部が本土産のものより青みが強い。
本種は後翅裏面の斑紋に橙色(O型)と紅色(R型)の出るものがあり,遺伝型と考えられる。O型は九州本土と四国に限られ,本州(山口を除く),対馬,南西諸島および外国ではR型のみ。近似種の多くはR型であるので,O型はおそらく新しい形質とみなされ,メンデル式優性遺伝をするものと思われる。本種は1934年に食樹がオガタマノキであることが判明してから新産地が続々発見され,また戦後,北アメリカ原産のタイサンボクも食樹となることが知られ,昔ほど珍種扱いされなくなった。43年に高知市のものが天然記念物(1952年に特天)に指定されているが,これは分布研究が十分でなかった当時のなごりであろう。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報