改訂新版 世界大百科事典 「ムント」の意味・わかりやすい解説
ムント
Munt [ドイツ]
mundium [ラテン]
伝統的なドイツ法史学において,ゲルマン法上,物権法の中心概念たる〈ゲウェーレ〉に対する人法上の支配権とされる。ムントは,元来家父(家長)が妻子その他すべての家人に対してもつ統一的な支配権(ローマ法上の家父権patria potestasが絶対的支配権であるのに対し,保護的支配権)であったが,のちに子に対する父権,妻に対する夫権,被後見人に対する後見権,家僕婢に対する主人権などに分化し,ついには家を超えて国政(公法)生活にも広がったというのである。しかし史料の中でムントという語,その派生語や複合語によって示されている法的関係は実に多様であり,そこに一つの共通の原理(公分母)を求めることは相当に難しい。父の子に対するムント,後見,妻に対する夫のムントをともなった婚姻,僕婢・徒弟・職人に対するムント,その他のムント(国王の聖職者・商人・ユダヤ人および教会・寡婦・孤児等に対するムント,聖俗高位者の種々の服属者に対するムントなど),これらのケースにみられる支配,保護,従属の諸関係を,伝統的見解のいう家父の統一的ムント権力(家権力)から出てきたとすることには,近時根本的な再検討が加えられている。
→家父長制
執筆者:佐々木 有司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報