改訂新版 世界大百科事典 「ゲウェーレ」の意味・わかりやすい解説
ゲウェーレ
Gewere[ドイツ]
古ゲルマン法に見られる,物支配を表現する唯一の法的概念である。原意は〈着装〉であり,転じて,物の現実的な支配を意味する。このため,〈装有〉とでも訳しえよう。それに相当する英語,フランス語の〈シージンseisin〉〈セジヌsaisine〉はともに〈把握〉が原意であり,装有と共通するものがある。
自然経済社会の法秩序では,人は自身の物を,動産では握り,不動産では収益する。つまり,物支配はつねに直接の現実的支配である。このために,装有は,物の現実的引渡しをもって移転され,この移転にもまたいっさいの装有状態にも,狭小な封鎖的社会では公示性が必然的にともなう。装有を侵害する試みに対しては,現存状態が一応正当なものとされて,装有者には防御が可能である。他人から不法に物を侵奪した人または契約に反して物を返還しない人に対しては,以前の装有者は不法または契約を理由に,現在の装有者から装有を〈自力をもってさえも〉回復しうる。この場合にのみ現装有者は防御に敗れる。ただし,契約で手放してその後第三者に移転してしまった動産は,〈手は手を守れ〉の準則により取り戻しえない。手から離れた物の支配力は弱いのである。
他方,上のような回復可能性から,後世,現実支配喪失後も所有権は喪失者のもとにとどまるとの観念的な法的構成が生まれる。中世もかなり早期に,相続,判決,不動産譲渡の場合には,装有の法的取得可能性の発生時点と現実の装有取得時点との間にずれが生じた。また,自然経済下の中央権力の弱い国家社会に生まれた以上のような法体系では,〈権利者〉による〈不当装有者〉に対する自力回復は適法であったが,中世のいわゆる〈商業の復活〉にともなう国内平和の要請から,ことに14世紀以後,権利者の〈本権の抗弁〉はもはや許されない傾向が,ローマ・カノン法の影響もあって出現し,占有訴訟したがって〈占有〉概念の分離独立と,観念的な所有権その他の諸物権の出現とが見受けられるに至る。
執筆者:塙 浩
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報