家父長制
かふちょうせい
Patriarchalismus ドイツ語
西欧の古代や中世の家(いえ)共同体において家長が家父長(パトリアーク)としての権力を行使し、成員を統率支配する制度。その家の成員は、この家父長(かふちょう)に対し厳密に個人的な恭順関係において服従する。この家父長がもつ権力は無制限かつ恣意(しい)的で、しきたりとなっている伝統的規範が侵しがたいものだという信念に基づく個人的な服従によって正当性を与えられている。それゆえ、他の伝統によって制限されたり、または競合する他の権力によって妨げられたりしない限りは、まったく自由気ままに行使される。古代ローマの家父長制家族はその典型であり、家父長の権力は、家の成員が男であれ女であれ、子であれ奴隷であれ、財産同様に取り扱い、生殺与奪の権さえもっていた。子は自由人として奴隷とは区別されたが、家父長権は自分の子を奴隷として売ることも、遺言に基づいて奴隷を子とし同時に相続人とすることさえもできた。
家父長権は、このように家に属するものに対するいっさいの支配権を集中した単一のものであったが、のち、子孫に対する家父権、妻に対する夫権、奴隷に対する奴隷権、物に対する所有権などに分化した。家父長制家族は近代家族と対比され、日本の家における家長もこれに準ずるようにみる説がある。また家父長制の概念は、その分権化された家権力による家産制支配などと同様に、社会の支配構造の型としても用いられる。
[中野 卓]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
家父長制【かふちょうせい】
家長たる男性が権力を独占し,父系によって財産の継受と親族関係が組織化される家族形態にもとづく社会的制度。父権制ともいい,英語ではpatriarchy。国家体制が家父長制的家族形態に擬せられることも歴史上多く見られる。フェミニズムの立場からは,女性を抑圧しつづける権力構造であり,性差別を生み,助長してきたとされ,フェミニズムはこうした状況を打破し,変革する運動と位置づけられている。→母権制
→関連項目家族制度|シングル・マザー|伝統的支配|名主|レズビアン・ゲイ解放運動
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
家父長制
かふちょうせい
家長(父とは限らない)が家族に対して絶大な権力をもつ家族制
農耕の発展にともない,男子の生産過程における優越が強大な家父長権を生んだという。この典型といわれるローマでは,家父長は妻子・縁者以外の人びとを含む家族集団を支配し,これらの人びとを土地や動産や奴隷と同じく生きた財産として管理した。一般にこの制度の下では女子の地位が低く一夫多妻制も見られ,代々の家長を祭る祖先崇拝も盛んであった。
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
家父長制
かふちょうせい
家父長の強い権力で家族を支配統制する家族形態
原始社会から古代社会への移行期に,男子が農業生産において決定的優位を占めたことが発生原因となった。日本でも古代の支配原理とされ,政治・社会全体に強く存在した。封建時代に家父長制小家族が確立。一夫多妻制・祖先崇拝などを伴った。明治憲法下でも道徳の基本理念とされ,家族国家観形成の基盤となった。
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
かふちょう‐せい カフチャウ‥【家父長制】
〘名〙
① 父系の家族制度で、家長が家族全員に対し支配権をもつ家族形態。奴隷制社会、封建制社会にみられる。
② 家父長制的家族の
イデオロギー、およびこれを原理とする社会の支配形態。家長制。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
かふちょうせい【家父長制 patriarchalism】
家父長制は次の三つに分類できる。(1)家族類型としての家父長制 家族におけるいっさいの秩序が,最年長の男性がもつ専制的権力によって保持されている場合,こうした家族は〈家父長制家族patriarchal family〉とよばれる。家父長paterfamiliasは,奴隷ばかりでなく妻や子どもに対しても(極端な場合)生殺与奪を含めて無制限で絶対的な権力をふるう。家族内のいっさいの権威は家父長にのみ帰属する(父権制)。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
世界大百科事典内の家父長制の言及
【親子】より
… 日本の武家社会を中心に親子間の規範秩序を歴史的にみると,古くから儒教の影響が強い。8世紀初頭,律令の継受により中国思想の影響を受け,親子は同籍同財の密接な関係ではあるが,親には子の婚姻に対する同意権や教令懲戒権が広く認められ,子に対しては孝養の義務が課され,家父長制的規範秩序が形成されていた。その後,戦国分国法では領主権により親の権利に制約が加えられたこともあったが,近世の後半からは,再び儒教的家父長制原理が強化され,男尊女卑,嫡男子優先が顕著になった。…
【家産制】より
… ウェーバーは正当的支配を,合法的,伝統的,カリスマ的支配の三つの純粋型に分類するが,家産制は伝統的支配に属する支配の類型である。彼によれば,この伝統的支配の〈第一次的類型〉は長老制Gerontokratieと第一次的家父長制primärer Patriarchalismusとである。長老制とは複数の家から成る団体において長老のおこなう支配であり,家父長制とは家において家父長のおこなう支配である。…
【古代社会】より
…
[家族]
このような身分制下にあって租税をになった人々がどのような家族を構成していたのかは,まだ解明されていない点が多い。従来から有力な学説として認められていたのは,戸籍にみえる50戸1里の単位となった郷戸を家父長制的世帯共同体とみ,これが農業労働の重要な単位として存在していたとする説である。その説によれば,このような家族は竪穴住居5~6棟の小グループに対応するもので,家父長が絶対的権力をもち,田宅,奴婢などの私有財産の処分権を掌握していたものとされている。…
※「家父長制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報