翻訳|monad
ギリシア語のモナスmonas(単位,一なるもの)に由来する概念。単子と訳される。古代ではピタゴラス学派やプラトンによって用いられ,近世ではニコラウス・クサヌスやブルーノが,モナドを世界を構成する個体的な単純者,世界の多様を映す一者としてとらえた。これらの先駆思想を継承して,ライプニッツは彼の主著《モナドロジー》において独自の単子論的形而上学思想を説いた。ライプニッツは物理的原子論を批判して,宇宙を構成する最も単純な要素すなわち自然の真のアトムは,不可分で空間的拡がりをもたぬ単純者であり,いわば〈形而上学的点〉とも言うべきものであると主張した。モナドは意識的もしくは無意識的知覚を有する魂に類似したものであり,それぞれに固有の観点から宇宙のいっさいの事象を表出する個体的な実体である。しかしおのおののモナドは相互に他から独立であり,モナドはそこから物が入ったり出たりする〈窓〉をもたない(無窓説)。モナドの作用は自己の内的原理のみにもとづいて展開され,モナド相互の間には予定調和の原理に従う観念的関係しか存しない。ライプニッツによれば宇宙においていっさいは生命的はたらきによってみたされており,物質のどのような微細な部分にも生命がある。モナドはかかる宇宙の生命的活動の原理であり,神の超自然的はたらきによってのほかは不生不滅である。誕生は生命の展開(現勢化)であり,死は生命の収縮(潜勢化)にすぎない。《モナドロジー》のこのような形而上学思想に含まれる最大の困難は,真の実在である不可分の単純者(モナド)からいかにしてわれわれが経験する物体的合成体が形成されるか,合成体は見かけの存在にすぎぬか,またはそこには真の統一があるか,等の問題であった。ライプニッツは〈実体的紐帯〉の説によってこれに答えようとしたが,それは十分説得的なものではなく,今日まで種々の論議を呼び起こしている。モナドの概念はその後多くの思想家によって用いられ,例えばルヌービエの《新モナドロジー》(1899),M.ネドンセルの〈モナド的相互人格性〉の思想,フッサールの〈モナド的相互主観性〉の説等に見ることができる。
執筆者:増永 洋三
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… さらに,この語の現代の用法からみると例外的であるが,ライプニッツの哲学にあっては表象はperceptioの訳語としても用いられる。ライプニッツはすべての存在者の究極の構成要素つまり実体を〈単子(モナド)〉と呼び,その基本的属性を〈欲求appetitus〉と〈表象perceptio〉にみる。したがって,精神的実体や動物にだけではなく,植物やさらには無機的物体にも,それなりの仕方で世界の全体をおのれのうちに“映し出し表現するrepraesentare”表象の能力が認められるのである。…
…(5)物を微小な基本的要素,たとえば原子(アトム)の集合体とみる立場も古代ギリシアのデモクリトス以来一つの強い伝統になっており,現代の量子論によってさらに原子そのものの内部構造が問い深められることによって,ますます精緻に仕上げられつつある。この考え方の一つの変異体として,ライプニッツのようにその基本的単位を空間的広がりをもたぬ力の統一体(モナド)としてとらえる立場もある。(6)ライプニッツのこの考え方はカントによっても受けつがれる。…
…ライプニッツにおいては力の概念は現象的自然の学である物理学の基礎とされるにとどまらず,さらに現象の根底に想定される真実在の学,すなわち形而上学の根本原理とされる。世界を構成する要素たるモナドは,形相的契機としての能動的力と質料的契機としての受動的抵抗力とから成る単純実体であり,いっさいの事象はそれぞれの単純実体の自発的働きの力動的展開,およびそれらの自発的働き相互の間の予定調和的対応として説明される。力動説という呼称は,ベルグソン説に典型的に見られるごとき,ダイナミックな生成を実在における本源的なものとみなす生命論的哲学説にも適用される。…
※「モナド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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