インドの物理学者。ティルチラパリの生れ。マドラスのプレジデンシィ・カレッジで物理学を学んだ後,大学院に進み光学と音響学を研究,さらに高度の学問を学ぼうと渡英を考えていたが,病弱のため断念し,1907年インド財務省に勤めた。勤務のかたわら,主としてインド科学振興協会の研究所で振動や音についての研究を続け,これが認められて17年,カルカッタ大学に新設された物理学の講座を担当することになった。21年夏ヨーロッパを旅したが,そのとき見た地中海の海の青い乳光色に興味をひかれ,その理由を解明するため帰国後液体中の光の散乱の研究に取り組んだ。22年の《光の分子回折》と題する論文で,空の色が空気の分子による光の散乱で説明できるのとまったく同様に,海の色も水の分子による光の散乱で説明されることを示した。また23年には共同研究者の一人K.R.ラマナタンが,入射光と波長の異なる散乱光を発見したのをきっかけに,実験装置の改良によって,その散乱光の中に,散乱媒質による固有の振動数差をもつ光が混じってくることを確認し,28年に発表,さらにボーアの対応原理を用いてこの現象(ラマン散乱あるいはラマン効果と呼ばれる)を説明した。ラマン散乱の発見により,写真乾板の感光領域の限界外にある,分子の振動スペクトルや回転スペクトルの分析ができるようになり,散乱媒質の化学構造決定も可能にした。これら一連の研究により,1930年ノーベル物理学賞を受賞,アジア人として最初のノーベル賞受賞者の栄誉を担った。33年から48年まではバンガロールのインド科学研究所教授,その後はみずから設立したラマン研究所の所長を務めた。
執筆者:日野川 静枝
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インドの物理学者。光の散乱に関する「ラマン効果」の発見者。南インドのトリチノポリ(現、ティルチラーパリ)で物理学教師の子として生まれ、マドラス(現、チェンナイ)の大学に学ぶ。カルカッタ(現、コルカタ)で大蔵省に勤めるかたわら研究を続け、1917年カルカッタ大学の物理学教授となる。光学と音響学の分野で多くの業績を残した。1928年、溶液の光散乱において散乱光の中に入射光と異なる波長の光が含まれてくる現象(ラマン効果)を発見した。これは量子論の実験的証明の一つとなるとともに、分子の構造とそのエネルギー状態に関するその後の研究に大きな影響を与えた。この業績により、1930年インドはもとより、アジアで最初のノーベル物理学賞を受賞した。1948年以後、ラマン自身が寄付をして設立したラマン研究所の所長。また1926年にはインド物理学誌を刊行、インド科学アカデミーも彼が創立し初代会長となった。科学雑誌を出版するなどインドにおける科学の普及に努めた。
[常盤野和男]
ドイツの土壌学者。ドローテンタールに生まれ、博物学者であった父に直接教育された。動植物の研究から出発し、林業試験場の技師を経てミュンヘン大学の土壌学・農芸化学の主任教授となった。土壌に関する基礎的知見はドクチャーエフ学派から受けているが、森林土壌の分類体系をつくりあげた研究成果の基礎は、職歴と豊富なフィールドワークにあった。地質学・植物学・化学の総合的視野にたって、土壌の成因を気候因子に求めた。ドクチャーエフの近代土壌学をヒルガードがアメリカに広めたと同様に、ラマンはそれを西欧に普及させた人といえる。主著に『Bodenbildung und Bodeneinteilung』(土壌生成と土壌分類、1918年)がある。
[浅海重夫]
インドの物理学者.父は,数学・物理学の教師で,父から科学と楽器への関心を受け継ぐ.マドラス大学に学び,J.W.S. Rayleigh(レイリー)とH.L.F. von Helmholtz(ヘルムホルツ)の音響学書を熟読した.当時,インドでは科学研究職は将来性があると思われなかったので,10年間大蔵省に勤務.その間も楽器に関する理論的・実験的研究を続け,その功績で1917年カルカッタ大学物理学教授に着任.1920年代はじめから関心を光学に移し,純粋グリセリンからの散乱光が青色でなく緑色になる理由を実験的に突き止めた.このラマン効果は量子論の基礎づけと認められ,1930年ノーベル物理学賞を受賞.1934年インド科学アカデミーを創設して会長を務め,インド科学興隆に貢献した.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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