ローマ字教育(読み)ろーまじきょういく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ローマ字教育」の意味・わかりやすい解説

ローマ字教育
ろーまじきょういく

国語科なかローマ字を読んだり、ローマ字で書いたりする能力を養うことをいう。このローマ字教育の位置づけは、第二次世界大戦後になって初めて行われた。文部省(現文部科学省)は1947年(昭和22)2月「国民学校におけるローマ字教育実施要項」を発表し、47年度から国民学校(47年7月からは小学校になった)において、事情の許す限り、ローマ字による国語の読み方・書き方が第4学年(または第3学年)以上で、1年を通じて40時間以上、国語あるいは自由研究の時間のうちで行うことを示した。指導の方針教材、方法などについては、別に『ローマ字教育の指針』が文部省によって編修され、配布された。

 ローマ字教育が第二次世界大戦後、義務教育のなかに位置づけられるようになった契機の一つは、1946年3月、アメリカ教育使節団がその報告書のなかで行った国語の改革に関する勧告にあった。同使節団は「仮名よりもローマ字により多くの利益がある。そのうえ、ローマ字は民主主義公民精神と国際的理解成育に資するところが大きい」と判断し、「可能なあらゆる手段によって、ローマ字の何等(なんら)かの形式が一般に使用されること」などを提案した。「ローマ字の採用国境を越えて、知識と思想伝達に大きな貢献をなすであろう」とも述べている。以来、文部省はローマ字教育協議会を設けたり、やがて国語審議会のなかにローマ字教育部会を設置したり、また、ローマ字教育の実験学級を全国に設けたりして調査研究に積極的に取り組んだ。ローマ字を学習させる意義効用は、ローマ字を読み書きする能力を養うとともに、国字国語問題に対して反省する機会を与えること、国語の機能と特質を理解・習得させ、聞いただけでわかることばを使う習慣を養うこと、ローマ字のもっている国際的・能率的な長所をみいださせることなどにあるとされた。こうして昭和20年代から30年代にかけて、ローマ字教育は熱心に実践され、相当の実績をあげるに至ったが、国語科の指導事項の精選、国語科の授業時数の削減などが行われるようになって、国語科における取扱いもしだいに後退していった。

 現行の小学校『学習指導要領』国語には、第3学年および第4学年の「言語事項」に「第4学年においては、日常使われている簡単な単語について、ローマ字で表記されたものを読み、また、ローマ字で書くこと」とあるだけである。漢字・仮名にかえてローマ字そのものを普及させることを目的とするローマ字教育もあるが、運動としてはともかく、本来は国語科教育の一環として生かされるのが望ましい。

[野地潤家]

『松村明著『ローマ字教育論』(1948・牧書房)』『ローマ字教育研究所編『国語科ローマ字の学習指導』(1951・ローマ字教育会)』『文部省編『小学校ローマ字指導資料』(1960・教育出版)』『梅棹忠夫著『あすの日本語のために』(1987・くもん出版)』『竜岡博著『ローマ字 ローマ字文の書き方』(2000・NRS)』『J・マーシャル・アンガー著、奥村睦世訳『占領下日本の表記改革――忘れられたローマ字による教育実験』(2001・三元社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ローマ字教育」の意味・わかりやすい解説

ローマ字教育
ローマじきょういく

ローマ字を用いて日本語の読み方,書き方を教育すること。学校教育の正科としての採用は 1947年。この年文部省は,前年のアメリカ教育使節団の勧告に従ってローマ字教育の実施を決意して「ローマ字教育の指針」を発表,同年4月から原則として小学校4 (または3) 学年以上の各学年で1年を通じ 40時間行うこととした。ローマ字で書く場合,分ち書きをするため,文法の理解に役立ち,またローマ字が表音文字であるため音韻に注意するようになるなど,ローマ字教育によって日本語に対する理解を深めることができると考えられ,一時盛んであったが,現実に用いる場面が少いこともあって,現在教育時間数は減少している。

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