翻訳|horsepower
物を動かすか変形させる動力の大きさを表す単位の一種。動力の大きさは、加える力の大きさと移動または変形する速度の積、つまり、単位時間にする仕事(仕事率)で表される。したがって、軽い物を早く動かすのと、重い物をゆっくり動かすのとが、仕事率では同じ場合がある。この比較を明確にする方法として、荷を運搬するのに多く使用された馬が何頭必要かで動力の大きさを示す方法が考えられた。これは人間が物を運搬するときの感覚と一致している。
蒸気機関を実用化したイギリスのジェームズ・ワットは、蒸気機関の性能を表示するために動力を実測し、動力の単位として馬力を制定した。馬力を動力の大きさの単位にしたのは、当時蒸気機関が進出した所で動力源として多く馬が使われていたためであろう。ワットは機械(水汲(く)みか製粉)の垂直な車軸に長さ12フィート(約3.66メートル)の腕木をつけ、その端に1頭の馬を結び軸の周りを回らせた。馬の回る速さと腕木の端にかかる力を実測したところ、1分間に2.5回転で、力は175ポンド(約79.4キログラム)であった。したがって1分間にする仕事は3万3000フィート・ポンドであり、毎秒550フィート・ポンドとなる。これが馬1頭の仕事率で、ワットはこれを1馬力とした。馬以外の動力源は、人間でも蒸気機関でも、馬力を実測したときと同じ仕事量を同じ機械で測定することによって仕事率が求められ、馬力で大きさを表すことができることになった。たとえば人間は、成人で短時間なら0.5馬力程度、連続では0.1馬力程度である。
馬力は初めフィート・ポンドで示されたが、この単位は国際的な単位ではない。そこでメートル法で550フィート・ポンド/秒に近い75キログラム・メートル/秒を1馬力とし、PS(Pferdestärke 馬の力)で表した。初めの550フィート・ポンド/秒(英馬力)をHPで表す。絶対値はすこし異なり、HPのほうが1%程度大きい。さらに国際的に単位を統一するためにCGS(MKS)絶対単位で表すことになり、自動車などのエンジンでも仕事率はワットで表されることになった。1ワットは107エルグ/秒すなわち1ジュール/秒で、近似的に1キロワットは102キログラム・メートル/秒である。したがって近似的に1馬力は0.75キロワットになる。
ワットは絶対単位として定められ、エネルギーの大きさを表す一般的な単位である。電気エネルギーも1ワットが1ボルト・アンペアであり、熱エネルギーも1カロリー/秒は4.186ワットに相当する。したがって1キロカロリー/秒は約5.6馬力になる。馬力は機関などの出しうる動力の大きさを示すが、燃料のもつ熱エネルギーの利用効率を示すものではない。したがって、熱機関などの性能を知るには、馬力と同時に熱効率、または1馬力時間または1キロワット・時の動力を出すのに必要な燃料重量を示す燃料消費率を知らなければならない。
[吉田正武]
『富塚清著『動力の歴史――動力にかけた男たちの物語(新装版)』(2008・三樹書房)』
重力単位系における仕事率(工率,動力)の単位。J.ワットが蒸気機関を発明した際,その性能を馬と比較して示すために作った単位で,ふつうの荷馬車用の馬が単位時間になしうる仕事の実測から,3万3000重量ポンド・フィート毎分を1馬力としたことに由来する。ヤード・ポンド法によるものとメートル法によるものとがある。(1)英馬力 550重量ポンド・フィート毎秒に等しく,重力加速度をg=9.8119m/s2とするため,約0.746kW,すなわち約746Wであり,記号はHP,もしくはh.p.である。(2)メートル馬力 75(重量)キログラム・メートル毎秒に等しく,重力加速度を9.80665m/s2とするため,約0.7355kW,すなわち約735.5Wであり,記号はPS(ドイツ語Pferdestärkeの略)。仏馬力ともいい,記号をCVとも書く。
執筆者:三宅 史 原動機などの発生動力に関連して用いられることばに,正味馬力,軸馬力,制動馬力と呼ばれるものがある。これらは皆同じ内容であり,原動機の軸端から取り出すことのできる動力を意味し,〈馬力〉の語を〈出力〉に置き換えうる場合もある。容積式内燃機関やスターリングエンジンなどで図示馬力というのは,動作ガスがピストン側に伝える熱力学的な仕事であって,前記の正味馬力よりも大きく,両者の比を機関の機械効率と呼ぶ。公称馬力というのは,カタログや銘板に記載されているいわゆる呼び馬力であって,その出力が保証されているとは限らない。定格馬力は,特定の運転条件,試験環境を規定したうえで表示したものである。例えばある種のモーターでは,連続定格は小さくとも3分定格,30秒定格は大きな値が表示できる。また自動車用のエンジンを他の機械に転用する場合,その定格出力の値は自動車用のときの最大出力として表示された値より著しく小さくなるのがつねである。これは,転用された場合の負荷条件,保証条件のほか出力測定法も自動車用のそれと大きく異なるからである。課税馬力ということばもある。これはシリンダー径,シリンダー数などによって便宜的に課税基準となる馬力値を算出するというもので,当然その値は実勢と大きくずれることがある。漁船馬力などがその一例である。水馬力ということばはポンプに使われ,ポンプ装置の水吐出部における水のもつエネルギーを馬力表示したもので,ポンプの能力表示法の一つである。同様にボイラー馬力はボイラーの蒸気発生能力を表したものであるが,ボイラーが進歩し,また蒸気機関のすたれた今日では歴史的な意味しかもっていない。
執筆者:酒井 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…49‐62年ボストン交響楽団の首席指揮者。67年パリ音楽院管弦楽団を改組してパリ管弦楽団を組織,同指揮者を務めた。フランス近代音楽を得意とし,軽快なリズム感と豊かな色彩感に満ちた演奏には定評があった。…
※「馬力」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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