日本大百科全書(ニッポニカ)「ん」の解説

五十音図の格外に置かれた仮名で、平仮名の「ん」は「无」の草体からでき、片仮名の「ン」は撥(は)ねる音を象徴した符号からできたものかと考えられている。万葉仮名には「ん」にあたる仮名はなく、草仮名でも「(无)」が用いられる。

 音韻的には/n/で、撥音(はつおん)の音節を示す。実際の発音では、あとにくる音の違いによって[m][n][ŋ][][]などの現れ方をする。そして「ンめ(梅)」「ンま(馬)」などを例外として、語頭には一般にたつことがない。撥音は促音(そくおん)(詰める音)などと同様に、音韻論的単位として古くから独立していたとはいえず、表記的にも「む」を用いたり、表記されなかったりで、さまざまであった。これが中央語で一音韻として確立するのは、平安時代からその萌芽(ほうが)はあったとはいうものの、室町時代も末のことである。

 なお「阿吽(あうん)」の「吽」は悉曇(しったん)十二母音の終音で、物事の終わりのをもち、口を閉じた形相や吸う息をも表して、「阿吽の仁王」「阿吽の呼吸」などと使われる。

[上野和昭]

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精選版 日本国語大辞典「ん」の解説

〘格助〙 (格助詞「の」の変化した語) 話しことばで用いる。
① 体言を受け、その体言が下の体言を限定することを示す。
太政官(1915)〈上司小剣〉四「利兵衛の後家とこへ公売にいたときは」
② 形式名詞のように用いる。
(イ) 「もの」「こと」の意を表わす。
※父の婚礼(1915)〈上司小剣〉二「雛はんが飯事(ままごと)するやうなを見るのが好きや」
(ロ) 叙述をまとめて体言化し、下の「だ」「です」に続ける。→んだ
※太官(1915)〈上司小剣〉四「これで昔しはお百姓ちうてよかったやが」

〘助動〙 (打消の助動詞「ず」の終止形と連体形とが共に「ぬ」となり、その変化したもの) 打消の意を表わす。…ない。
※足利本論語抄(16C)里仁第四「何とて佗国へゆかんとありければ、此処は苛政なしとまうす也」
洒落本・中洲の花美(1789)小通の登楼「おれがとこへばかりをよこしてくれちゃアうらみだ。もふのめんのめん」
[補注]「・五大力恋緘‐一幕返し」の「エエもそっと此方へ寄りんかいな」、「浪花聞書」の「いきんか 行んか也」など、連用形に付いている例もある。

〘感動〙 相手の意向を了解したり、承諾したりしたことを表わすことば。また、相手の呼びかけに答えるときに出すことば。うん。
※付焼刃(1905)〈幸田露伴〉三「『アア憎いとも! ほんとに!』『ン、そして』」
※遠方の人(補筆)(1946)〈森山啓〉七「『にいさん!』『ん?』『にいさんは、さっき何を書いてゐたの』」

〘格助〙 格助詞「に」の変化した語。話しことばで、動詞「なる」に続くとき用いられる。
蒼氓(1935‐39)〈石川達三〉一「死に身なって働くから」

語素〙 金額、年齢などをはっきり言うのを避けて数の代わりに用いる。「ん万円」「三十ん歳」

〘助動〙 ⇒む〔助動〕

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デジタル大辞泉「ん」の解説

ん[五十音]

撥音の音節。鼻音の有声子音だけで1音節をなす。実際の発音では、後続音の有無や種類により、両唇鼻音[m]、歯茎鼻音[n]、軟口蓋鼻音[ŋ]、奥舌と軟口蓋との閉鎖をゆるくした鼻音[N]などの別がある。
平仮名「ん」は「无」または「毛」の草体から。片仮名「ン」ははねる音を象徴的に示す記号」から転じたものかといわれている。

ん[助動]

[助動]《推量の助動詞「む」の音変化》活用語の未然形に付く。
婉曲的表現を表す。「あらかぎりの力を出す」
(「んとする」の形で)意志・推量の意を表す。「言わとすることはわかった」

ん[格助]

[格助]格助詞「」の音変化。「それ、僕だ」「君ちへ行こう」
「あたし―とこに明いてるのがあるから」〈二葉亭平凡

ん[感]

[感]
相手の意向を了解・承諾したときに用いる語。うん。「、いいよ」
疑問を表すときに用いる語。「、何か変だぞ」

ん[助動]

[助動][助動]

ん[助動]

[助動][助動]

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