アシュール文化 (アシュールぶんか)
北フランス,アミアン郊外,サンタシュールSaint Acheul遺跡を標準遺跡とする前期旧石器時代文化。ヨーロッパではいわゆるハンド・アックスを伴う石器文化の新しい方に位置づけられる。木や骨角を材とした軟質のハンマーをその石器製作に用いた結果,剝離が薄くなり,石器の稜部が直線形になる。その年代はミンデル氷河期からリス/ウルム間氷期の終りまでがあてられ,30万年以上も継続したと考えられる。分布もきわめて広く,西ヨーロッパからインドまで,およびアフリカ大陸全体に知られる。アフリカではクリーバーと呼ばれる幅広刃部をもつ両面調整の石器を伴うのが普通である。ヨーロッパではクリーバーはイベリア半島に限られる。
ハンド・アックスの形態に従って3期に分けられる。前期では分厚い塊状を呈し,大型の剝片石器を伴う。中期には長さが短くなったハンド・アックスがみられ,楕円形で薄いもの(ヒラメ形)が多い。後期では三角形を呈し,先端が鋭くつくり出されたものが多くなる。フランスのドルドーニュ地方ではウルム氷河期になって特殊な発展が認められ,それはミコック文化の名で呼ばれている。ただアシュール文化における石器製作技術の進展は,最近ではヨーロッパよりもアフリカでよりよく知られている(タンザニアのオルドバイ遺跡)。アルジェリアのテルニフィヌTernifine遺跡において,原人の骨がアシュール文化に共伴し,その文化の担い手が原人であることが明らかとなった。さらに最近,この文化の研究の古典的地域である,北フランスのソンム川流域でも原人頭骨の破片がアシュール文化に伴出した。いくつかの洞窟をも含めて,多くの遺跡が知られているが,生活様式が明らかにされるにはいたっていない。テラ・アマタTerra Amata遺跡の住居址と原人の足跡,ラザレLazaret遺跡の洞窟内の住居址は貴重な資料である。
執筆者:山中 一郎
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アシュール文化
あしゅーるぶんか
Acheul
アフリカ、ヨーロッパ、西アジアを中心に広がる前期旧石器時代の文化。北フランスのアミアン郊外の、ソンム川段丘上にあるサン・アシュールを標準遺跡とする。ソンム川の段丘は19世紀以来、地質学的にも考古学的にも注目を集めてきた所だが、1883年にフランスのモルティエによってムスティエ文化に先だつ旧石器時代最初の文化段階として評価された。地域差はあるが、万能石器といわれるハンド・アックス(握槌(にぎりづち)・握斧(あくふ))を共通してもつ。代表的な石器としてはほかにクリーバー(鉈(なた)状石器)がある。
100万年以前から6万年前ぐらいまで続くアシュール文化は、大きく前、後期に分かれる。前期には、石で打撃を加える石器製作技術しかもたなかったが、後期には骨、木などの柔らかいハンマーも用いるようになる。技術的には長足の進歩を遂げ、ルバロワ技法とよばれる特徴的できわめて体系的な石器製作技法も生み出される。
[山下秀樹]
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「アシュール文化」の意味・わかりやすい解説
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アシュール文化(アシュールぶんか)
Acheul
フランス北西部,アミアン近傍のサン・タシュール(Saint-Acheul)遺跡を標式遺跡とし,石核(せっかく)石器系の旧石器を主とし剥片(はくへん)石器を伴う。アフリカでは約170万~160万年前に出現し,130万年前頃には西アジアへ拡散した。その後,西ヨーロッパおよび南アジアに広範囲に分布するようになり,30万年前から10万年前頃まで続いた。前期,中期,後期の3期に分けられる。いわゆるクー・ド・ポワン(握斧(あくふ))のほかに,クリーバー(なた状石器),削器(さっき),手用尖頭器などの剥片石器ならびに狩猟用の投玉が使用された。ヨーロッパ,アフリカ両大陸の前期旧石器文化の後半を代表する石核石器系文化である。
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アシュール文化
アシュールぶんか
Acheul culture
アフリカ,ヨーロッパ,西アジアに広くみられる前期旧石器文化。従来,ヨーロッパではアブビル文化に続いて,アフリカではシェール文化に続いて現れるとされていたが,今日では,握斧を特色とする前期旧石器文化をすべてアシュール文化と呼び,それを前期,後期に分ける傾向が強くなってきている。アシュール文化の発展の様相はアフリカでよくたどられており,ヨーロッパではアシュール文化の各期の間に断絶がみられる。このことから,アシュール文化の故地をアフリカに求める意見が強い。握斧と剥片石器がおもな石器であるが,後期にはソフトハンマーを用いた形の整った握斧が出現する。この種の握斧は東アジアではまったくみられない。標準遺跡はフランスのソンム河畔のサンタシュール。
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アシュール文化
アシュールぶんか
Acheul
第2間氷期からリス氷期まで数十万年続いた前期旧石器文化
主として原人の時代で,石核を使った握斧 (にぎりおの) を中心とし,旧大陸全域に分布した。
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世界大百科事典(旧版)内のアシュール文化の言及
【シェル・アシュール文化】より
…ヨーロッパ,アフリカおよびアジアの一部では,中部更新世のころ,[ハンド・アックス]を指標とする前期旧石器文化が栄えていた。19世紀以来,フランスの二つの標式遺跡にちなんで,その前半は粗製のハンド・アックスをもつシェルChelles文化,後半はより発達した石器を作り出した[アシュール文化]として区分されてきた。しかしその後,シェル遺跡の石器はアシュール文化のものが主体を占めていることが明らかになり,シェル文化の用語は,ヨーロッパではソンム河岸の遺跡名をとって[アブビル文化]に置き換えられた。…
【ハンド・アックス】より
…用途は未分化であり,おそらく万能な道具として,切る,削る,掘るなどに用いられたものとみられるが,限定できないことから,両面調整石器biface,またフランス語のクー・ド・ポアンcoup‐de‐poingという名称も用いられる。ヨーロッパ,アフリカを中心とした前期旧石器時代の石器に限って用いられ,ミンデル氷期からリス氷期(50万~23万年前)のシェル文化,[アシュール文化]の代表的な石器であるが,石製ハンマーで粗く打ち欠いたシェル文化のものに比べて,アシュール文化のハンド・アックスには石材よりもむしろ軟らかい鹿角,木といったハンマーによる加工で,調整のいきとどいた芸術作品ともいえる優品がある。基本的には一端でとがる形をとり,セイヨウナシ形,卵形,楕円形,三角形,尖頭状の細長い形のものなどがある。…
※「アシュール文化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」