アスターナ(その他表記)Astana

改訂新版 世界大百科事典 「アスターナ」の意味・わかりやすい解説

アスターナ (阿斯塔那
)
Astana

中国新疆ウイグル自治区トゥルファン(吐魯番)県の高昌古城(カラホージョ)の北西に位置し,高昌古城住民の墓地がある。20世紀初頭に大谷探検隊やイギリスのスタインが発掘を行い,第2次大戦後,中国の学者によりたびたび調査が行われている。墓は地下に斜めに墓道をくりぬいて墓室を営んだ中国風のもので,それらは北朝の高昌郡時代,高昌国時代,唐代の西州時代のものの3時期に分けられる。高昌国時代の墓からは,高昌国の年号を記した墓誌や伏羲女媧の絹画が出土している。7世紀中葉から8世紀中葉の初・盛唐代の墓では,ササン朝ペルシア銀貨,東ローマの金貨,錦,紗や纐纈,﨟纈といった絹織物が見られる。363号墓からは,ササン朝最後の王ヤズドガルド3世(在位632-651)の銀貨や,景竜4年(710)に書写された《論語鄭氏注》が発見された。樹下人物図などの壁画をもつ墓もある。この時期の墓は中国西北の漢人のものであり,高昌国王麴伯雅とつながる豪族張雄の墓などが数代にわたって発見されている。出土品には東西交渉史上注目すべきものが多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アスターナ」の意味・わかりやすい解説

アスターナ
あすたーな / 阿斯塔那
Astāna

中国、新疆(しんきょう/シンチヤン)ウイグル自治区のトゥルファン盆地にある遺跡。高昌(こうしょう)故城の北方約2キロメートルにある。ここは高昌国の貴族たちを埋葬した古墳群で、東西約2.5キロメートル、南北1.2キロメートルの地域に密集している。年代的には3世紀から9世紀に及ぶ。この地方は極度に乾燥しているため、有機物もほとんどそのまま残り、当時の文化、生活を示す貴重な遺品が出土した。かつてイギリスのスタインや日本の大谷探検隊がここを調査し、多くの出土品を持ち帰った。1949年の解放後、新疆社会科学院の本格的な調査が始まり、すでにその大部分は発掘されたといわれる。現在その出土品は、ウルムチ、トゥルファンのほか中国各地の博物館に展示されている。おもな出土品としては、まず大量の漢文文書がある。その内容は『尚書』『毛詩』『論語』『三国志』『文選(もんぜん)』などの古典の残簡をはじめ、高昌国の政治、経済、文化を示すおびただしい古文書である。そのほか死者の官職、埋葬年月日を記した墓塼(ぼせん)も多数出土し、高昌国の紀年や官制が明らかにされつつある。また絹織物もさまざまな断片が出土している。そのほか副葬品として多くの木彫や塑像が出土した。すなわちウマ、ラクダ、怪獣や騎馬人物、百戯、音楽舞踊などの土偶、農作物や食品、さまざまな薬品などが出土し、これらは多種多様の古文書とともに、高昌国研究の貴重な資料となっている。

[長澤和俊]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アスターナ」の意味・わかりやすい解説

アスターナ
Astāna

中国,シンチヤン (新疆) ウイグル (維吾爾) 自治区トゥルファン (吐魯番) 盆地の地名。古墳群がある。トゥルファン盆地は5~7世紀に高昌国の栄えたところで,その首都カラ・ホージョ (哈拉和卓)に近いアスターナの古墳からは,中国文化を多く取入れた同国の文化を物語る遺物が多数発見された。

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世界大百科事典(旧版)内のアスターナの言及

【高昌】より

…現況の各城壁や建築地が上の歴史に照らし,どの時期のものか比定は困難であるが,内城中央で北涼の沮渠(そきよ)安周造寺功徳碑やマニ教壁画,ウイグル文仏典が出土している。都城外側にある墓地は,北東方のカラホージョ村以東,北西のアスターナ村以北,南東方の3区に墳丘を伴って営造され,数基ないし数十基を垣で囲む同姓の墓園から成り,その一部は1915年にスタインによって発掘され,1959‐75年には晋代から唐代に至る400基が発掘された。墓誌,紙本・絹本の絵画,俑(よう),錦綾,鞋靴(あいか),衣物疏,地券,功徳録,契約文書,紙棺,枕衾(ちんきん),冠帯などが出土し,またビザンティン帝国やササン朝ペルシアの金・銀貨が,遺体の口に含ませたり,両眼を覆う含銭・覆眼といった独特の風習に使われて出土した。…

【トゥルファン】より

… トゥルファンの周辺には,歴史的な各時代の都城址や,古墓群が散在し,この地がシルクロード上の要地であったことから,東洋史研究の一宝庫と目されている。都城址としては,トゥルファン県の西およそ10kmの地にある交河古城址と,南東およそ45kmの火焰山の南麓にある高昌古城が双璧であり,石窟としては県城の北東45kmの火焰山北麓に沿ったムルトゥク峡谷にあるベゼクリク石窟と,東40kmの地にあるセンギム・アギヌ石窟など,古墓群としては高昌古城の北1kmの地にあるアスターナとカラホージョ,それに交河古城周辺の古墓群がある。これらのうち,ヤルホトとも呼ばれる交河古城は,その名のごとく,城の東西を二つの河川によって取り巻くように挟まれた台地の上にある山城で,天然の要塞になっているために城壁のないのが珍しい。…

【俑】より

…これとは別に十二支の動物を人格化した十二生肖(せいしよう)もこの時代に加わる俑である(十二支像)。新疆ウイグル自治区トゥルファン(吐魯番),アスターナの唐墓から出土する彩色の泥俑は,唐制に基づくものであるが,手づくねの造形と素朴な彩色はユーモラスな感をかもしだす。隋・唐以降もなお俑はつくられつづけていくが,唐の陶俑を凌駕するものは現れなかった。…

※「アスターナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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