アストロラーベ(読み)あすとろらーべ(英語表記)astrolabe

翻訳|astrolabe

デジタル大辞泉 「アストロラーベ」の意味・読み・例文・類語

アストロラーベ(astrolabe)

アラビアヨーロッパ中世に用いられた天文観測器械。円環上に刻まれた目盛りによって、二星間の角距離や星の高度などを測るもの。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アストロラーベ」の意味・わかりやすい解説

アストロラーベ
あすとろらーべ
astrolabe

古代、中世に用いられた天文、航海用の天体観測器。語源はギリシア語で、astrostarlab=to takeで「星をつかむもの」が原意。日本では1618年(元和4)池田好運(こううん)が『元和(げんな)航海書』のなかで「アストロラビオ」とポルトガル語で記したのが最初である。現在では一般にアストロラーベ、英語ではアストロレイブといわれている。

 2世紀ごろのアレクサンドリアの天文学者プトレマイオスの著書『アルマゲストAlmagest(天文学大系)内の記述により、その発明は紀元前150年ごろヒッパルコスによってなされたとされている。そして中世においてもっとも広く使用され、17世紀に至るまで実用され続けた。本来の形におけるアストロラーベには二つの目的があった。その一つは水平線からの、太陽、月、惑星あるいは恒星までの高度(角度)測定用で、もう一つの目的は天文計算用の計算器であり、後者に重点が置かれていた。ヒッパルコスの業績はイスラム天文学者らにも継承され、その一人ファザーリAl-Fazārīは紀元前80年ごろにアストロラーベについて解説書をつくっている。ヨーロッパにアストロラーベが導入されたのは1220年ごろレオナルド・ダ・ピサLeonard da Pisa(1170?―1240?)によるといわれる。

 現存最古のものは10世紀ごろのもので、イスラム製である(イギリス、グリニジ海洋博物館所蔵)。形は大部分が平板式であるが、わずかながら球形のものもあった。標準型としての平板式のものは、表面が計算器、裏面が測角器になっていた。航海用としてこれを天体観測用に用いるには、船の動揺や強い風圧などから、測角が容易でなかった。このため1480年にドイツの天文学者ベハイムが、測角のみを目的とした航海用アストロラーベを発明した。その構造は簡単で、金属製目盛り円板が十文字半径をなす骨格の周囲を形づくり、これに取り付けられたつり輪によって指でつり下げられ垂直を保つようになっている。円の中央に回転可能の指方規(しほうき)があり、その両端ののぞき穴から天体をのぞき見て指方規の位置を決め、円周目盛り板上で天体の高度を読むのである。板の十文字骨格以外の部分に穴があいているのは、海上の強風に耐えるためである。性能的に航海用アストロラーベは、標準型の裏面とまったく同じといえる。

 標準型の表面の部分、すなわち計算器の面は、つり輪のついた母体盤と、測者が旅する範囲によって選ばれる地域盤1枚と、その上にのせた雷文(らいもん)盤を、裏面の指方規を含んで全部が同軸に収まるように軸ピンと楔(くさび)とで止めてある。地域盤は母体盤に抱かれてはめ込まれるが、その面上には中心を天の北極として、同心円が内側から北回帰線、赤道、南回帰線(円周)と、天球上の要点を投射して刻んである。さらに前記の基準円との関係において測者のいる緯度から測者の天頂が決定され、それを基準とする等高度線と等方位角線が刻まれている。雷文盤は、現在ならば、北極を中心として描かれた星図がプリントされた透明プラスチックでつくられる種類のものである。何本かの針の先端は常用恒星の位置を示し、偏心小円輪は黄道円を示している。その最外端には太陽の年間移動経路が刻まれており、暦日に従って盤内の各位置が決められた。

 アストロラーベによれば、天体の高度が測定され緯度測定ができた。次に時刻を知ることができた。恒星時、真太陽時などまで知ることができ、さらに天体の位置確認などにも使用できた。それらのことから、アストロラーベは理解できる者には便利であったために、占星術師の重要な器具ともなった。

[茂在寅男]

『杉田英明著『事物の声 絵画の詩――アラブ・ペルシア文学とイスラム美術』(1993・平凡社)』『茂在寅男著『航海術』(中公新書)』『The Planispheric Astrolabe(1976, National Maritime Museum, Greenwich)』


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世界大百科事典(旧版)内のアストロラーベの言及

【アストロラーブ】より

…アストロラーベともいう。天体の高度を測るために古代から使われた簡単な観測器械の名であったが,現在では経緯度決定に使われる高級な天体観測装置をいう。…

※「アストロラーベ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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