翻訳|alkylation
通常は、有機化合物を構成する原子にアルキル基CnH2n+1-を結合させる反応をいう。アルキル基と結合する原子の種類により、炭素の場合はC-アルキル化、窒素の場合はN-アルキル化、酸素の場合はO-アルキル化など、それぞれの区別がある。無機化合物中の酸素や金属のアルキル化も知られている。化学工業のもっとも重要な単位反応の一つとして広く利用されているほか、有機化合物の合成、生体内の反応過程としても重要である。
[廣田 穰]
炭素原子上でのアルキル化は、実際には有機化合物の置換反応や付加反応として知られている。C-アルキル化反応のおもな方法としては、カップリング反応、エノラートなどの炭素陰イオンのアルキル化、付加反応によるC-C結合の形成、フリーデル‐クラフツ反応がある。
(1)カップリング反応 一般的にアルキル金属とハロゲン化アルキルのアルキル基どうしがC-C結合を形成する反応である。古くから知られているウルツ‐フィティッヒ反応、グリニャール試薬とハロゲン化アルキルとの反応などがあり、最近ではパラジウムなどの遷移金属触媒を用いる多くのカップリング反応が開発されている。
(2)炭素陰イオンとハロゲン化アルキルの反応 エノラートなどの炭素陰イオンはハロゲン化アルキルによる求電子的攻撃を受けてC-アルキル化される。たとえば、マロン酸エステルの陰イオンは容易にα(アルファ)-炭素上にアルキル化される。
Na+C-H(COOC2H5)2+R-X
―→RCH(COOC2H5)2+Na-X
(3)付加反応 二重結合や三重結合をもつ不飽和化合物に対して有機金属などが付加する求核付加や、フリーラジカル(遊離基)が付加するラジカル付加などが、C-アルキル化に使われる。付加によりできた新しいアルキルラジカルが、さらに原料の不飽和化合物に付加して、反応が連鎖的におこると重合反応になる(付加重合。 参照)。
マイケル付加反応でもC-アルキル化がおこる。また、普通アルキル化には含めないが、付加環化反応もC-C結合を生成する反応である。
(4)フリーデル‐クラフツ反応 芳香族炭化水素(Ar-H)のアルキル化にしばしば用いられる反応で、求電子的置換反応である。典型的な反応では、無水塩化アルミニウムなどのルイス酸を触媒とし、ハロゲン化アルキル(R-X)をアルキル化剤として用いてアルキル化を行う。この反応は、塩化アルミニウムとハロゲン化アルキルが反応してアルキル陽イオン(R+)が生成し、これが芳香環のπ(パイ)電子を攻撃する機構で進行する。ハロゲン化アルキルを等モル以上用いると、多数のアルキル基を芳香環に導入できる。アルコールR-OHと硫酸やリン酸との組合せを用いても、アルキル化を行うことができる。
石油化学工業ではアンチノック性の高い枝分れしたイソパラフィンの製造法として、酸触媒を用いるアルキル化のプロセスが応用されている。
[廣田 穰]
有機化合物中の酸素のアルキル化は、アルコールやフェノールからエーテルを合成する際に利用される。アルキル化剤としてはハロゲン化アルキル、硫酸ジアルキル、アルコールが一般に使われる。穏和な条件下でメチル化を行う試薬としてはジアゾメタンCH2N2が使われる。ハロゲン化アルキルによりO-アルキル化を行う場合には、アルコールやフェノールをナトリウムによりアルコキシドまたはフェノキシドにして反応させる。
[廣田 穰]
窒素のアルキル化は第一アミンを第二アミンに、第二アミンを第三アミンに、第三アミンを第四級アンモニウム塩にする際に利用される。通常はハロゲン化アルキルを用いて行う。この方法により各種のアルキルアミンが合成される。アンモニアをアルキル化して第一アミンをつくることもできる。
硫黄(いおう)、セレン、リン、ケイ素などの非金属元素や金属元素のアルキル化も可能である。金属原子のアルキル化は、ハロゲン化アルキルと金属との反応や、アルキル金属化合物とより陽性な金属とのアルキル交換を利用して行うことができる。
[廣田 穰]
一般には有機化合物に,置換反応あるいは付加反応によってアルキル基を導入する反応をいう。置換反応には水素原子の求核反応と求電子反応があり,付加反応にはカルボニル化合物のグリニャール反応をはじめとして,一般に有機金属化合物のカルボニル基やC=C二重結合への付加などがある。そのほか金属水素化物のオレフィンへの付加反応もある。また石油精製工業では,高オクタン価のイソパラフィンであるアルキレート(たとえばイソオクタン)を得るプロセス(付加反応)をいう。アルキル化反応に用いられる試薬(アルキル化剤)には,ハロゲン化アルキル,オレフィン,アルコール,ジメチル硫酸,ジアゾメタンなどがある。アルキル化反応の例を以下に示す。
(1)炭素原子のアルキル化。フリーデル=クラフツ反応が著名で,無水塩化アルミニウムが触媒となる。たとえば,
(2)酸素原子のアルキル化。エーテル結合の生成が起こる。たとえば,
(3)窒素原子のアルキル化。たとえば,
(4)イソオクタンの製造。
執筆者:冨永 博夫+友田 修司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
置換反応または付加反応によって有機化合物にアルキル基を導入する反応.便宜上,新しく生成する結合の種類によって,次のように分類される.
(1)炭素原子のアルキル化:ハロゲン化アルキルやアルケンを用いるフリーデル-クラフツ反応,アルキルアルカリ(たとえば,メチルリチウム)とハロゲン化アルキルとの反応などがある.
(2)酸素原子のアルキル化:アルコールに水酸化アルカリとともにハロゲン化アルキル,硫酸ジアルキルなどを作用させると混合エーテルが得られる.
(3)窒素原子のアルキル化:ハロゲン化アルキル,硫酸ジアルキルなどはアンモニアやアミン類と反応してアミノ水素をアルキル基で置換する.
(4)その他:金属やケイ素,硫黄など,いろいろな原子のアルキル化反応が知られている.また,強力なアルキル化剤として,トリメチルオキソニウムテトラフルオロボレート(メチル化剤)などが使われる.
工業的には,アルケンによる芳香族およびアルカンの酸触媒存在下のアルキル化がある.化学工業原料の製造のための芳香族のアルキル化には,ゼオライトなどの固体酸触媒が用いられる.また,アルキル化剤としては,アルコールやハロゲン化アルキルも利用できる.合成燃料(高オクタン価ガソリン)の製造のためのアルカンのアルキル化には,硫酸あるいはフッ化水素が触媒として用いられているが,固体酸への転換が進められている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…1877年,フランスのフリーデルCharles Friedel(1832‐99)とアメリカのクラフツJames Mason Crafts(1839‐1917)の2人の共同研究で発見された。アルキル化とアシル化の2種の反応が知られているが,いずれも触媒として塩化アルミニウムAlCl3のような強いルイス酸を必要とする。(a)アルキル化 ベンゼンなどの活性化されたベンゼン核を有する芳香族炭化水素は塩化アルミニウムの存在下でハロゲン化アルキルと反応して,アルキルベンゼンを与える(式(1))。…
※「アルキル化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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