日本大百科全書(ニッポニカ) 「イギリス料理」の意味・わかりやすい解説
イギリス料理
いぎりすりょうり
簡素で実質的な家庭料理として知られている。素材の持ち味を生かす簡単な調理法に特徴がある。材料の組合せは単純で、幾種もの材料を用いて総合的な味として完成される繊細で手のこんだフランス料理とは対照的である。この簡素で伝統的な家庭料理には、ボイルドビーフやランカシャーホット(ポット・アイリッシュシチュー)などの煮込み料理や、キドニーパイやミートパイ、ミンスミートパイに代表される歴史のあるパイ料理がある。またヨークシャープディングや牛肉と腎臓のプディングのほか、クリスマスには欠かせないプラムプディングなど、各種のプディングもイギリス料理の特徴を示すものである。ローストビーフは、まさに簡単な調理法が肉に応用されたイギリスの代表料理であり、これにはかならず前述のヨークシャープディングとホースラディッシュ(ワサビダイコン)が添えられる。また、イギリスは狭い国土ではあるが、島国で周囲を海に囲まれ、そのうえ国内には大小の河川が数多く流れている。そのため海産、淡水産の新鮮な魚貝類が豊富にあり、魚貝料理も多い。その代表として、もっとも庶民的で家庭料理というより大衆料理として親しまれているフィッシュ・アンド・チップスがあげられる。タラなどの白身の魚とジャガイモをそれぞれ油で揚げただけのもので、紙に包んで街頭で売られている。19世紀の中ごろに、食事に帰宅できない工場労働者のためにできた料理だといわれている。このほかイングリッシュ・ブレックファーストと称され、世界中に有名な朝食メニューは、実質的な食事として質、量とも充実した一日の活動源となる献立である。ポリッジとよばれるオートミールのお粥(かゆ)かコーンフレーク、オレンジかグレープフルーツのジュース、たっぷりのミルクティー、焼きたての薄切りトーストにマーマレードかジャム、香ばしく焼いたベーコンエッグなどが一般的である。イギリスにおける紅茶の歴史は古く、イギリス人の生活に紅茶は不可欠である。1杯のモーニング・ティーに始まり、午後3時過ぎにスコーン(scone、スコットランド特有のパンで生地にベーキングパウダーを混ぜて円形にしてオーブンで焼いたもの。)や自家製のケーキ、ビスケット、サンドイッチとともに出されるアフタヌーン・ティーや、夕方のハイ・ティーと、紅茶を楽しむ習慣はイギリス人の食生活のリズムをつくっているとさえいえる。このほかジャムなどのプリザーブ類(季節の野菜や果物を長く保存するために考え出された加工食品で、ジャムやゼリー、果物を砂糖やスパイスで味つけしたチャツネ、フルーツのアルコール漬けや砂糖漬けなど)、ニシンやタラといった魚貝類の薫製などの保存食も発達している。
[田中伶子]
『今田美奈子著『お菓子の手作り事典』(1981・講談社)』