改訂新版 世界大百科事典 「イヌマキ」の意味・わかりやすい解説
イヌマキ (犬槙)
Podocarpus macrophyllus(Thunb.)D.Don
暖地の山林中に生え,また庭園でもよく植えられるマキ科の常緑高木で,雌株には人形の形をした実ができる。紀伊半島一円などで,コウヤマキのホンマキに対して犬の字を冠して区別した方言名が,そのまま標準和名に用いられた(マキ)。
高さ20mに達し,水平に枝を張る。幹の樹皮は帯褐灰白色で縦に裂ける。葉は密に螺生し,線状披針形で先は少しとがり,長さ7~15cm,表面は濃緑色を呈する。花は5月ごろ前年枝に腋生(えきせい)し,雄株では長さ3~5cmの円柱形の雄花が3~5個,短い柄につく。雌株では1cm内外の柄で雌花が単生し,著しい花托がある。10月粉白緑色の球形種子が熟し,花托は肉質赤紫色に肥厚して食べると甘い。種子は樹上にあるうちに発芽し,幼根を出してから落ちることが多い。房総半島以西琉球諸島までの主として太平洋側と台湾,中国中・南部の暖帯,亜熱帯に分布する。適潤地を好み,海岸林に多い。材は黄褐色で木目が通り,水湿に耐え,またシロアリに強いので,建築・土木用に供される。潮風に強いので沖縄県では海岸砂防林としても植えられる。切ると特殊の臭みがある。
庭園樹にされるラカンマキvar.maki Endl.はイヌマキの園芸品種と考えられ,古くから知られている。葉は長さ5~8cm,幅5~7mmと母種に比べて小型であり,種子は広楕円形である点で異なる。母種P.macrophyllusより生長がおそく,庭木としては高級とされる。両種とも刈込みに耐え,耐陰性・耐潮性が強いので,海岸近くの高生垣として,また庭の主木として植栽される。
イヌマキの所属するマキ属Podocarpusは,約100種が主として南半球に広く分布している。そのうちもっとも北まで分布しているのが,マキである。マキ科Podocarpaceaeも同様に,南半球型の分布をしており,マキ属を含めて6属125種ほどが知られている。
執筆者:濱谷 稔夫+脇坂 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報