日本大百科全書(ニッポニカ) 「イボダイ」の意味・わかりやすい解説
イボダイ
いぼだい / 疣鯛
Pacific rudderfish
Japanese butterfish
[学] Psenopsis anomala
硬骨魚綱スズキ目イボダイ科に属する海水魚。北海道以南の日本各地、朝鮮半島南部の海域および東シナ海に分布する。東京付近と静岡県静浦(しずうら)ではエボダイ、千葉ではアゴナシ、関西ではウオゼ、長崎、福岡ではシズとよぶ。体は卵円形で著しく側扁(そくへん)し、吻(ふん)は短くて、先端は丸く飛び出す。口は吻の下面に開く。鰓耙(さいは)は上枝に6~7本、下枝に14~15本。鱗(うろこ)は円鱗(えんりん)できわめてはがれやすい。頬(ほお)には鱗がない。側線は体の背縁と並行して走り、側線鱗数は55~63枚。体の表皮は薄くて、体側の中央部から上下に走る十数条の浅い溝がある。体表から多量の粘液を出す。背びれは1基で、きわめて短く、軟条部との境は明瞭(めいりょう)ではない。食道の上部に左右1対(つい)の腎臓(じんぞう)形をした食道嚢(のう)がある。体色は淡灰青色で銀白色の光沢を帯び、鰓孔の上方に不明瞭な黒褐色の斑紋(はんもん)が1個ある。背びれ、臀(しり)びれ、尾びれの縁辺は黒い。昼間は水深30~370メートルの広範囲の底層に生息し、夜間に餌(えさ)を求めて浮上する。また、季節的な移動も認められ、太平洋側南部海域では、夏季は比較的浅海域に来遊するが、秋から冬季は外海の沖合いへ移動する。おもにオキアミ類、サルパ類、クラゲ類、コペポーダ類、多毛類、小エビ類などいろいろなものを捕食する。稚魚はミズクラゲ、エチゼンクラゲ、アカクラゲ、流れ藻などにつき、外敵から身を守り、クラゲ類やコペポーダ類を食べる。産卵場は日本近海では日向灘(ひゅうがなだ)、豊後(ぶんご)水道、紀伊水道、山口県の日本海側、長崎県などの沿岸に見られるが、東シナ海では大陸沿岸にある。産卵期は東シナ海では4~6月、西日本では6~8月で、南ほど早い。卵径0.92~1.05ミリメートルの分離浮性卵を産む。1年で体長12~15センチメートル、2年で17~19センチメートル、3年で21センチメートルほどに成長する。最大体長は30センチメートルに達する。おもに底引網、定置網で漁獲される。体表の粘液は透明で多いほうが新鮮とされている。肉は白色で柔らかく、脂肪が多く、夏はとくに美味で、刺身、塩焼き、煮つけ、干物、みそ漬けなどにする。和名のイボダイの「イボ」は胸びれの下方にあるイボ状の小突起、あるいは鰓孔の上方にある黒斑がお灸(きゅう)の跡に見えることに由来するといわれている。日本近海には近縁種のニセイボダイP. shojimaiが知られているが、ニセイボダイは側線鱗数が62~70枚あり、イボダイよりも多いことで区別できる。
[鈴木 清・尼岡邦夫 2023年11月17日]