ウィルキンソン(読み)うぃるきんそん(その他表記)John Wilkinson

デジタル大辞泉 「ウィルキンソン」の意味・読み・例文・類語

ウィルキンソン(Geoffrey Wilkinson)

[1921~1996]英国の化学者。金属有機化合物のサンドイッチ構造を解明し、メタロセンと総称される類似の化合物を合成。ウィルキンソン触媒を開発したことでも知られる。1973年、E=フィッシャーとともにノーベル化学賞受賞。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウィルキンソン」の意味・わかりやすい解説

ウィルキンソン(John Wilkinson)
うぃるきんそん
John Wilkinson
(1728―1808)

イギリスの技術者、鉄工場主。カンバーランド州クリフトンで生まれ、スタッフォードシャーブラッドリーで没す。父のアイザックIsaac Wilkinson(1695―1784)は製鉄家で、副業として農業を営んでいた。10歳のころランカシャーのブラックバロウに移った父のもとで見習工として働きながら科学的教育を受けた。長じて当時イギリスの鉄工業の中心地であったシュロップシャーに移り、自分の働いていたブラッドリーの工場を買収し、溶鉱炉で木炭のかわりに石炭を用いる溶鉄に成功した。彼が使用したのは原炭で、コークスを用いた作業法は1828年になってから一般に行われるようになる。

 1763年、財産を得てシュロップシャーのウィリーに溶鉱炉を借り受け、ここで当時広く用いられていた精錬法に従って鍛鉄を製造した。また1774年に鉄製大砲の鋳造および穴あけ法について特許を取得した。このとき製作した中ぐり盤(1775)はまもなくワットの蒸気機関のシリンダー製造に使用された。ボールトン‐ワット商会で製作された最初の蒸気機関はウィリーのウィルキンソンの工場で運転された。1789年には腔口(こうこう)に旋条(せんじょう)を刻んだ小銃の特許をとり、1790年には鉛管に線条を刻む方法に対し特許をとった。そのほか彼の特許は、圧延法、溶鉄法、精錬法その他各種炉の利用法に及び、亡くなるまで多面的な発明家として活動した。また長さ約100フィート(30メートル)あまりの、世界で初めてとなる本格的な鉄橋をブロズリーの町でセバーン川に架設した。

[中山秀太郎]


ウィルキンソン(Geoffrey Wilkinson)
うぃるきんそん
Geoffrey Wilkinson
(1921―1996)

イギリスの化学者。ウェスト・ヨークシャー州に生まれる。1939年に奨学金を得てロンドン大学のインペリアル・カレッジに入学し1941年に卒業したが、第二次世界大戦のさなかで、軍事研究として核エネルギー開発計画に参加した。1943年にカナダの国立研究評議会に勤務、1950年マサチューセッツ工科大学での研究を経て、1951年ハーバード大学助教授となった。1955年イギリスに戻り、ロンドン大学の無機化学教授となった。1976年にはナイト爵位を受けている。

 学究生活の当初は原子核関係の研究についたが、1950年ごろから遷移金属錯体の研究に移行した。金属と水素結合をもった錯体の研究を進め、フェロセンの構造として、環状分子によって金属分子が挟まれたサンドイッチ化合物の概念を提唱するなど、錯体化学の基礎研究およびその応用で大きな成果をあげた。その業績により、1973年にノーベル化学賞を受賞した。同じような研究を行っていたフィッシャーとの同時受賞であった。

[編集部 2018年6月19日]

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改訂新版 世界大百科事典 「ウィルキンソン」の意味・わかりやすい解説

ウィルキンソン
John Wilkinson
生没年:1728-1808

イギリスの製鉄業者。中部イングランドで4鉄工場からなる製鉄業を築き上げ,〈スタッフォードシャーの偉大な鉄工親方the great Staffordshire ironmaster〉の名で知られる。父は高炉親方で,火のし,鋳鉄管,高炉用送風機などの特許を取っている。ジョンはその長男で,初め鉄器商となり,1756年以後,父のバーシャム鉄工所に参加,また,ほかとの合資でブラッドリー,ブロズリーの2鉄工所を設立した。コークス高炉法,鋳鉄砲の中ぐり法などをくふうし,75年高精度の円筒中ぐり盤を製作,これによるシリンダーの加工によりワットの蒸気機関実用化の道を開いた。彼はこのほか,A.ダービー3世との協力で世界最初の鋳鉄橋(コールブルックデール橋)の架設(1779)にも貢献し,また自社製品の河川輸送用に世界最初の鉄船を製作した。
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化学辞典 第2版 「ウィルキンソン」の解説

ウィルキンソン
ウィルキンソン
Wilkinson, Geoffrey

イギリスの化学者.ロンドン大学インペリアル・カレッジで学んだ後,第二次世界大戦中はカナダで核開発計画に参加(1943~1946年).その後,カリフォルニア大学バークレー校,マサチューセッツ工科大学,ハーバード大学で研究を行い,1956年インペリアル・カレッジへ戻り,無機化学を担当した.1940年代には同位体の研究を行っていたが,1950年ころから遷移金属錯体の研究を開始した.このころに合成されたフェロセン(ビス(シクロペンタジエニル)鉄(Ⅱ))のサンドイッチ構造を提案し,こうした構造をもつ化合物の合成を行った.また,1965年には,ウィルキンソン錯体[RhCl(P(C6H5)3)]を発見した.こうした有機金属化学の研究に対して,1973年E.O. Fischer(フィッシャー)とともにノーベル化学賞を受賞.かれがF.A. Cottonとともに書いた無機化学教科書Advanced Inorganic Chemistry(1962年)は有名である.

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百科事典マイペディア 「ウィルキンソン」の意味・わかりやすい解説

ウィルキンソン

英国の製鉄家,機械技術者。鉄器商として出発し,のち高炉親方で高炉用送風機などの特許所持者であった父のあとを継ぎバーシャム鉄工所に参加。みずからも合資によりブラッドリー,ブロズリーの2工場を創設し,ブラッドリーの製鉄所で溶鉱炉の石炭使用に成功。1775年には鉄製大砲の穴あけ用に高精度の中ぐり盤を製作した。この円筒中ぐり盤でワットの蒸気機関の実現に不可欠であった精密なシリンダーが製造されたのは有名。圧延法,小銃旋条法などの特許も得た。またA.ダービー3世と協力し,1779年には世界最初の鋳鉄橋コールブルックデール橋を架設。
→関連項目工作機械産業革命

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウィルキンソン」の意味・わかりやすい解説

ウィルキンソン
Wilkinson, Geoffrey

[生]1921.7.14. ヨークシャー,トドモーデン
[没]1996.9.26. ロンドン
イギリスの化学者。ロンドン大学卒業。 1941年に学位取得。 1950年代初期,マサチューセッツ工科大学,ハーバード大学などで教鞭をとったのち,母校のインペリアル・カレッジに迎えられた (1956) 。有機金属化合物の研究に従事,51年,E.フィッシャーと共著で『ネイチャー』誌にフェロセンに関する論文を発表。それが,2つの炭素五員環に1個の鉄原子がサンドウィッチ状にはさまれた構造をもつことを明らかにした。この研究が基礎となって,遷移金属と有機化合物を結びつける反応過程が明らかとなり,その後同様の各種金属誘導体 (メタロセン) がつくられるにいたった。 73年,フィッシャーとともにノーベル化学賞を受賞し,76年ナイトの称号を授けられた。

ウィルキンソン
Wilkinson, James

[生]1757. メリーランド,カルバート
[没]1825.12.28. メキシコシティー
アメリカの軍人,政治家。アメリカ独立戦争では H.ゲーツ将軍の副官をつとめ,戦後ケンタッキーに移住。 1803年のルイジアナ購入後,ルイジアナ北部地域の総督に就任。アーロン・バーの「陰謀事件」ではバーの計画を T.ジェファーソン大統領に手紙で知らせた。バーは裁判の結果,証拠不十分で釈放されたが,ウィルキンソン自身が疑われ,軍事裁判と連邦議会の調査を受けた。彼はスペインとの密接な関係を隠し,ニューオーリーンズ司令官の地位を保ったが,軍事指揮の失敗から軍役を退いた。

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デジタル大辞泉プラス 「ウィルキンソン」の解説

ウィルキンソン

アサヒ飲料株式会社が販売する炭酸飲料のブランド、またその商品名。イギリスのジョン・クリフォード・ウィルキンソンが発見した兵庫県有馬郡(現・西宮市)の炭酸鉱泉水が起源。1890年、「仁王印ウォーター」として発売。炭酸水のほかにジンジャーエール、コーラなどがある。

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世界大百科事典(旧版)内のウィルキンソンの言及

【工作機械】より

… 産業革命は工作機械の発達に大きな影響を与えたが,一方,工作機械も産業革命の推進に多くの貢献をした。その代表的な例が水車による回転動力を用いたウィルキンソンの中ぐり盤で,ワットの蒸気機関を実用化するうえでの大きな障害であったシリンダーの加工用として1775年に作られた。ウィルキンソンの中ぐり盤は,古い時代の工作機械の最後を飾ると同時に近代工作機械への胎動であった。…

※「ウィルキンソン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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