ウラン濃縮(読み)ウランノウシュク(英語表記)uranium enrichment

デジタル大辞泉 「ウラン濃縮」の意味・読み・例文・類語

ウラン‐のうしゅく【ウラン濃縮】

天然ウラン中のウラン235の割合を人工的に大きくし、核分裂しやすい濃縮ウランを作ること。方法には、ガス拡散法ガス遠心分離法などがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「ウラン濃縮」の意味・わかりやすい解説

ウラン濃縮 (ウランのうしゅく)
uranium enrichment

天然に存在するウランUは,質量数の異なるウランの同位体235Uと238Uとの混合物であり,そのうち熱中性子と反応して核分裂を起こしエネルギーを発生することができるのは,ウラン中にわずか0.7%ほどしか含まれていない235Uである。そこで,ウランを種々のタイプの原子炉の燃料や原子爆弾の製造に使用するために,ウラン中の235Uの濃度を必要に応じた濃度にまで高める操作をウラン濃縮と呼ぶ。したがって,ウラン濃縮はウラン元素についての同位体分離操作であるともいえる。他の国々に先がけて大規模なウラン濃縮工場を建設した米,英,仏,ソ,中の5ヵ国の当初の目的は,濃縮度の非常に高い濃縮ウランを製造し,原子爆弾をつくることであった。しかし,現在では,世界中の多くの国々で原子炉用燃料,特に軽水炉用燃料を製造するためのウラン,すなわち235Uを数%程度含んでいる低濃縮ウランの製造を目的とした種々の濃縮技術の開発が進められている。

 235Uと238Uとは,核的特性がまったく異なり,1原子当りの重さもわずかに異なるが,ともにウラン元素としての共通した化学的特性を有するため,通常の分析化学的な操作では,実際上,両者を濃縮・分離することはできない。上記5ヵ国が最初に採用したウラン濃縮の方法は,いずれもガス拡散法または隔膜法と呼ばれるものであった。この方法は,ウランを気体状の化合物である六フッ化ウランUF6にし,この気体を隔膜と呼ばれるきわめて微細な貫通孔を有する多孔性物質中を通して低圧側に噴き出させると,隔膜を透過してきたUF6中の235Uの比率が,透過せずに高圧側に残っているUF6中の比率にくらべてわずかに高いことを利用するものである。隔膜の平均孔径は高圧側の圧力におけるUF6ガスの平均自由行程より十分に小さくなければならない。孔径が微細でUF6が透過しやすく,かつUF6ガスに対して耐食性を有する隔膜をつくることが,この方法における一つの重要な鍵である。隔膜中を透過させる1回の操作では,ウラン中の235Uの濃度はせいぜい1.0043(238UF6235UF6の分子量の比の平方根)倍にしかならない。したがって,所定の濃縮度のウランを得るためには,この小さな分離効果を幾重にも重畳する必要があり,5%程度の低濃縮ウランを製造するためにも,およそ1000段のカスケードからなる濃縮工場を建設する必要がある。ガス拡散法はこのように1回の操作で達成しうる濃縮度が小さく,しかも原理的な上限がある。また,低圧側に噴き出してきたUF6ガスを次の段の高圧側に送るために,各段にUF6ガス用圧縮機が必要であり,その消費電力が非常に大きい,などの欠点がある。しかし,隔膜の製造以外はそれほど高度な技術を要しないため,1940年代にアメリカで遂行された原子爆弾製造のためのマンハッタン計画で使用されて以来,40年近くにわたって大規模なウラン濃縮に適する唯一の方法であった。

 その後,諸分野における技術の高度な進展を背景に,ガス遠心分離法,空気力学的分離法(ノズル法ヘリコン法)等がガス拡散法と競合しうるようになってきて,世界各国で採用されるウラン濃縮の方法も多様化するにいたった。

 ガス遠心分離法は,回転する円筒内にUF6ガスを供給すると,そこに生ずる遠心力の作用で,軽い235UF6は中心軸あたりに,重い238UF6は回転胴周辺部にそれぞれ片寄って分布しようとすることを利用して,ウラン濃縮を行う方法である。1台の遠心分離機で達成できる濃縮度は,回転胴の周辺速度を速めていくと,その速度の2乗に比例して高まっていく傾向にある。また実際の遠心分離機では,回転胴の両端に温度差をつけたり,スクープと呼ばれるものを付設したりして,軸方向にUF6の対流が生ずるようにして,遠心分離機内部においても分離効果の重畳が可能なように工夫されている。ガス拡散法にくらべて,ガス遠心分離法は1回の分離操作で実現できる分離効果が大きく,消費電力も小さいなど,多くの利点がある。

 西ドイツで開発されたノズル法と南アフリカ共和国で開発されたヘリコン法は,ともに原理が似ており,あわせて空気力学的分離法と呼ばれている。ノズル法は大量の水素ガス中にUF6ガスを混入し,断面が半円形の溝状の側壁に沿ってこの混合ガスを噴き出させると,軽い235UF6は重い238UF6よりも側壁に沿う流れから離れようとする傾向の強いことを利用して,ウラン濃縮を行う方法である。空気力学的分離法は,分離器に回転部分がなく,構造が単純であり,ガス拡散法における隔膜のような特殊な技術を要するものが不要である,などの長所を有しているが,最大の欠点は電力消費量が非常に大きいことである。

 レーザー法は,ウランの金属蒸気の励起準位あるいはUF6ガス分子の分子振動にわずかながら同位体シフト(同位体間の差異)があることに着目してレーザーを照射し,235U(238U)またはその分子だけを選択的に励起して,235Uを238Uから分離する濃縮法である。この方法は,原理的には,1回の分離操作で非常に高い濃縮度のウランを製造することができるという利点をもっている。

 化学交換法と呼ばれる方法は,2種類のウラン化合物UAとUBとの間の同位体交換反応235UA+238UB⇄238UA+235UBにおいて,その平衡定数が1からわずかにずれることを利用してウラン濃縮を行うものである。すなわち,UAとUBとが共存して平衡状態にある場合,化合物UAに含まれるウラン中の235Uの濃度が,化合物UBに含まれるウラン中の235Uの濃度と異なることを利用するものである。二つのウラン化合物UAおよびUBとして,いろいろな化学形が検討されている。また,イオン交換樹脂に交換吸着したウランと溶液中にあるウランの状態の差に起因して交換平衡定数が1からずれることを利用するイオン交換分離法もある。

 ウランの金属蒸気をプラズマ状態にしてウラン濃縮を行う方法は,一般にプラズマ分離法と呼ばれている。たとえば,ウランイオンを電磁気的な力によって前述の遠心分離機の回転胴の周速よりもはるかに速い速度で回転させることにより,回転軌道の半径方向にウラン同位体の比率に分布を生じさせてウラン濃縮を行うプラズマ遠心分離法,あるいは,一様な磁場の中でウランイオンのプラズマを,235Uイオンのサイクロトロン周波数に同調させた電場で励起して,235Uイオンのらせん軌道の半径を選択的に大きくし,238Uイオンから分離するイオンサイクロトロン共鳴法などがある。

 その他のウラン濃縮法として,熱拡散分離法および電磁的分離法を挙げておく。両者はマンハッタン計画でガス拡散法とともに使われたが,効率が悪く,第2次世界大戦後は使用されなくなった。前者は,温度の異なる2面の間に液体状のUF6を放置しておくと,高温側と低温側とでは,238Uに対する235Uの比率に差異が生ずることを利用する方法である。後者は,加速されたイオンが磁場中に入って描く円形軌道の半径がイオンの重さ(および荷電数)によって異なることを利用して,軽い235Uを重い238Uから分離する方法であり,その原理はひろく使用されている質量分析器の原理と同じである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウラン濃縮」の意味・わかりやすい解説

ウラン濃縮
うらんのうしゅく

ウラン235は天然ウラン中にわずか0.72%しか含まれていない同位体であるが、その存在比を人工的に大きくする操作がウラン濃縮uranium enrichmentで、その操作の結果得られるものが濃縮ウランである。濃縮ウランは、原子力発電や核兵器の燃料として用いられる。

 第二次世界大戦中のマンハッタン計画(原爆製造計画)でアメリカは、当時知られていたあらゆる同位体の分離法を試みた。それは、核分裂性核種であるウラン235を分離濃縮できさえすれば、容易に高性能の爆弾をつくれる見通しがあったからである。図Aは、ウラン235の濃縮度と核爆発をおこすのに必要な最小限の質量(臨界質量)との関係を示すもので、これから濃縮度30%以下では実際上、核爆弾材料にはできないことがわかる。平和利用を目的とした濃縮ウランの輸出に際して、核不拡散を目的として濃縮度が通常20%以下に制限されるのはこの理由による。

[中島篤之助・舘野 淳 2015年9月15日]

濃縮ウランの製造方法(ウラン濃縮法)

各種のウラン濃縮法(ウラン濃縮技術)については、それぞれ後述するが、歴史的にもっとも重要であったのは「ガス拡散法」である。先にも述べたマンハッタン計画により、アメリカは第二次世界大戦中およびその直後にガス拡散法に基づく三つの巨大な濃縮工場を、23億ドルの巨費を投じて建設した。その能力合計は1万7200トン分離作業単位に達し、1970年ごろまでは資本主義圏全生産量の95%を占めていた。このことが、同じ核分裂を利用する原子力発電において軽水炉が世界の原子炉市場を制覇するに至った理由である。ソ連(現、ロシア)、イギリス、中国、フランスもガス拡散法の工場を建設、運転していたが、これらの国々は「遠心分離法」に転換しつつある(図B)。なお「遠心分離法」は、日本でも行われている。日本原燃(株)は、かつて動力炉・核燃料開発事業団(動燃)の人形峠事業所(のちの核燃料サイクル開発機構、現在の日本原子力研究開発機構・人形峠環境技術センター)が研究開発した遠心分離法によるウラン濃縮の技術成果を基にして、1992年(平成4)より青森県六ヶ所村で商業用プラントの操業を行っている。この方法は比較的小規模な工場で高濃縮ウランをつくることができるので、核拡散に直結した「センシティブ(機微)な技術」とよばれる。

 そのほかに研究開発段階のもので「レーザー法」「化学交換法」などがある。このうち「化学交換法」は旭化成(株)の日向(ひゅうが)工場のパイロット・プラントで、世界に先駆けて成功したが、現在は研究が中止されており、実用化はされていない。

[中島篤之助・舘野 淳 2015年9月15日]

各種のウラン濃縮法の比較

現在、実用および研究開発中のおもなウラン濃縮法を以下に示す。

(1)ガス拡散法 気体状化合物としては六フッ化ウラン(UF6ガス)を用い、分子の拡散速度の差を利用する濃縮法。特殊な隔膜を通して気体を拡散させると、気体分子の質量の比の平方根に比例して同位体の分離が行われることを利用する。設備に可動部が少ないため、構造が単純で容量の拡大が容易なことから、大容量の処理に適しているが、カスケード(拡散筒の集合体)1段当りの分離係数が小さく、電力消費量が大きいなどの難点がある。現在実用化されている。

(2)遠心分離法 UF6ガスを用い、縦形円筒を高速で回転させると、遠心力の作用で、質量数の大きいウラン238は外側に、ウラン235は内側に集まりやすいことを利用する。ガス拡散法に比べて分離係数はずっと大きく、電力消費量も10分の1程度になる。規模も小さく経済性に優れているが、機構的に複雑で高度な産業技術が必要とされる。周速の大きい長胴型の高性能遠心機をいかに安価で量産するかが、この方法の成功の鍵(かぎ)である。軽量で強靭(きょうじん)な材料としてチタン系合金が用いられるが、高速回転を可能にする「軸受」の開発が技術の鍵をにぎっている。現在実用化されている。

(3)化学交換法 4価ウランと6価ウランの交換反応を利用する。イオン交換樹脂で多重化。利点としては、可動部が少なく、プラントの小型化、エネルギー消費量の低減化が可能である。しかし、定常達成時間が長い。日本、フランスで研究開発が進められ、日本は成功している。

(4)原子レーザー法 金属ウランを蒸気化し、スペクトルの同位体シフトを利用してウラン235のみをレーザー光でイオン化して分離する。分離係数がきわめて大きく、建設費大幅低減の可能性がある。しかし、大出力レーザーの開発が必要で、ウラン金属の高温での取り扱いが困難である。

(5)分子レーザー法 超音速ノズルで冷却されたUF6ガスにレーザー光を照射し、ウラン235のみを紛体のUF5ガスにして捕集する方法。分離係数が大きく、建設費大幅低減の可能性がある。ただし、高繰り返しレーザーの開発が必要。

[中島篤之助・舘野 淳 2015年9月15日]


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化学辞典 第2版 「ウラン濃縮」の解説

ウラン濃縮
ウランノウシュク
uranium enrichment

熱中性子と反応して,容易に核分裂を起こすウラン同位体235Uの濃度を高めるために行う同位体分離のこと.濃縮の方法としては,ガス拡散法(隔膜法),遠心分離法,レーザー分離法,化学交換分離法,電磁分離法などがある.ガス拡散法は,現在,工業的に大規模に行われている.この方法は,ウランの気体化合物UF6分子を多孔性の隔膜を通して低圧側に噴出させると,235UF6238UF6よりもわずかに多く噴き出ることを利用したものであるが,一段の分離係数が小さいので,何段にも重ねて濃縮をはからなければならない.遠心分離法は,UF6ガスを円筒内に導入して円筒を回転させ,遠心力によって中心部(235UF6)と周辺部(238UF6)に偏って分布するようになるUF6分子を,別々に取り出す方法である.レーザー分離法では,ウラン金属蒸気,あるいはUF6分子の吸収スペクトルのわずかな違いを利用する.化学交換分離法では,同位体交換反応の平衡定数の1からのわずかな違いを利用する.電磁分離法は,イオンの磁場内での軌道の違いを利用する.ウラン濃縮によって,235Uの濃度が1~2% になったウランは重水炉で,2~6% になったウランは軽水炉で,さらに20% 程度のウランは高速増殖炉の核燃料として用いられる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウラン濃縮」の意味・わかりやすい解説

ウラン濃縮
ウランのうしゅく
uranium enrichment

天然に存在するウランは,ウラン 238238U (存在百分率 99.27%) ,ウラン 235235U (0.72%) および微量のウラン 234234U (0.006%) という同位体の混合物である。このうち,核分裂を起こすのはウラン 235だけであるため,ウランを核燃料として使用できるようにするには,ウラン 235の濃度を必要に応じた濃度にまで高めなければならない。ウラン元素の同位体はそれぞれわずかな質量の違いはあるが,化学的特性は同一なので,化学的な方法では分離しにくい。そこで同位体間の質量の差を利用して分離するいろいろな方法が開発されている。代表的なものとしては,運動速度の差を使うガス拡散法,ノズル分離法,質量差を直接使う遠心分離法,電磁法,電子エネルギー順位の違いを使うレーザー法,反応速度差を使うイオン法,光化学的分離法などがある。現在,大規模工業化では,ガス拡散法,遠心分離法によるプラントが中心である。最近ではレーザー法などの開発研究も本格化しつつある。

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世界大百科事典(旧版)内のウラン濃縮の言及

【核燃料サイクル】より

…軽水炉では中性子が減速材である軽水に吸収されむだに消費される割合が高いため,中性子の発生割合を高めておく必要があり,235Uの比率が2~3%の濃縮ウランを用いる。この場合,ウランを原子炉の中に入れる前の段階で,天然ウランを濃縮ウランに変えるウラン濃縮という過程が核燃料サイクル上必要になってくる。中性子の利用効率がよければ,天然ウランを直接利用することも可能である。…

※「ウラン濃縮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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