ウロボロス(読み)うろぼろす(英語表記)ouroboros

翻訳|ouroboros

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウロボロス」の意味・わかりやすい解説

ウロボロス
うろぼろす
ouroboros

自らの尾を噛(か)んで飲み込み円を形づくる蛇または竜のこと。円形は、始めと終わりが一致すること、いいかえれば始めもなく終わりもないことから、完全、永遠、不滅の象徴とみなされ、天地創成神話やグノーシス派で象徴図として用いられた。ケプラーによる楕円(だえん)運動の発見までは、月よりも上の天体は完全な円運動をし、月下界では不完全な直線運動をすると考えられていた。チェーザレ・リーパCesare Ripa(1560ごろ―1620ごろ)の『イコノロジア』によれば、フランチェスコ・バルベリーニFrancesco Barberini(1597―1679)の「永遠」の擬人像は、豊かな金髪を肩まで垂らし、あげた両手黄金の球を持ち、星をちりばめたドレスを着た女性の姿で表されている。そして、腰から下の大腿部(だいたいぶ)は蛇のように交差して合体し、ウロボロスのように円形をなして彼女自身を包み込んでいる。また、アンドレア・アルチャーティAndrea Alciati(1492―1550)のエンブレム集の中には、「不滅は学術研究を通じて得られる」というモットーを表すエンブレムとして、腰まで裸でひげのないトリトンがほら貝を吹きながら海を漂い、その彼をウロボロスがとりかこむ絵が描かれている。さらに、ユングによれば、錬金術文献において、われとわが尾を食らい、交合し、孕(はら)ませ、殺し、再生させるウロボロスは、ヘルマフロディトス(ギリシア神話でヘルメスアフロディテの間に生まれた男と女の両性をもつ息子)として、男と女、太陽と月、ヌース(精神)とピュシス(自然)など対立する二つのものから成っているが、同時にまたこの対立物の合一の象徴でもある。それは一方では死をもたらす毒、バジリスク(息や眼光で人を殺したといわれるギリシア神話の怪獣)にして蠍(さそり)であり、他方では万能薬であり救済者である。

[米田潔弘]

『C・G・ユング著、池田紘一・鎌田道生訳『心理学と錬金術Ⅰ・Ⅱ』(1982・人文書院)』『高橋康也著『ウロボロス、文学的想像力の系譜』(1980・晶文社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ウロボロス」の意味・わかりやすい解説

ウロボロス
Ouroboros

自分の尾を嚙んで円形をなす蛇または竜。ギリシア語に由来する。世界創造が全にして一であることを示す象徴図として,天地創成神話やグノーシス派で用いられた。終末が発端に帰る円運動,たとえば永劫回帰や,陰と陽のような反対物の一致など,意味する範囲は広い。錬金術では,宇宙の万物が不純な全一(原物質)から出て変容を重ねた後,純粋な全一(賢者の石)に回帰する,創造・展開・完成と救済の輪を示すのに使用された。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のウロボロスの言及

【円】より

…循環する円は,あらゆる動きを示し,統合と分割,再統合,進化と退化,成長と退行,生と死の過程など永遠の時間の象徴として知られている。 ヘレニズム文化の中で考えられ,さらに錬金術で用いられた永遠の時間を表すものに,自分の尾をかむ蛇の図形があり,ウロボロスと呼ばれている。永遠にみずからをのんで成長を繰り返す循環的な時の経過や,原初的混沌(こんとん),またはあらゆるものを包含する一者を表す象徴として知られ,すべての数,または点の総合として,数の10や八角形ともかかわっている。…

【数】より

… 0は一般に非存在を意味するが,すでにその中にあらゆるものの存在を暗示する場合が多い。全体,混沌,永遠,循環,生と死などを含み,しばしば蛇が自分の尾をかむ象徴的図形(ギリシア,ヘレニズム文化圏ではウロボロスとよばれたもの),あるいはそのバリエーションで表される。 1は存在の始まりであり,精神,点,中心,楽園,神,光,超越者,陰陽の陽,父,男性,積極性などを意味する。…

【竜】より

…ゲルマンの叙事詩《ニーベルンゲンの歌》に登場する英雄ジークフリートも竜を殺す。これらの竜はいずれも無意識・混沌を示す円環的時間(進歩のない歴史)の隠喩であり,ギリシアではみずからの尾を嚙む竜ウロボロスで表された。この永続が破れ,進歩へ向かう歴史(直進的時間)が開始される経緯を表したのが竜殺しのテーマであるといえるかも知れない。…

※「ウロボロス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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