トリトン(読み)とりとん(英語表記)Triton

翻訳|Triton

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリトン」の意味・わかりやすい解説

トリトン(天文)
とりとん
Triton

海王星の最大の衛星。名前はギリシア神話海神ポセイドン(海王星の名の由来)の息子トリトンに由来する。1846年10月にラッセルWilliam Lassell(1799―1880)により発見される。太陽系最大の逆行衛星(母星の自転とは逆向きに公転する衛星)である。逆行衛星のため、海王星との潮汐(ちょうせき)作用によって軌道が徐々に低くなり、数億年後には砕けて海王星に落下するか、輪(リング)になると考えられている。トリトンは、太陽系の衛星のなかで7番目の大きさで、準惑星冥王星エリスよりも大きい。

 トリトンの平均公転半径は35万0410キロメートル、公転周期は5.88日、離心率は0.00、軌道傾斜角(軌道面と母星の赤道面の間の角度)は157.3度(つまり、逆行)。直径は2706キロメートル、質量は2.96×10の22乗キログラム、自転周期は5.88日。逆行衛星であることから、エッジワース・カイパーベルトから海王星の重力により捕獲されたと考えられるが、離心率がほぼ「0」(円軌道)であることなど謎が多い。表面には薄い窒素とメタン大気があるが、マイナス235℃の極低温世界で凍り付いていると思われる。海王星との潮汐作用で衛星の内部が加熱されたことによって引き起こされたと思われる火山活動もみられる。1989年に惑星探査機ボイジャー2号がトリトンの近接撮影に成功している。

[編集部 2022年10月20日]



トリトン(原子核)
とりとん
triton

水素の同位体であり、1個の陽子と2個の中性子とからなる原子核で、三重水素原子の核をなす。トリトンは、原子炉の中で重水素が中性子を吸収してγ(ガンマ)線を放出する核反応によって生成される。しかし、安定核ではなく、半減期12.4年でβ(ベータ)崩壊し、陽子2個と中性子1個とからなるヘリウム原子核の同位体に変わる。天然には普通の水素原子核(陽子)の約1018分の1ぐらい存在するが、これは宇宙線による大気中での核反応でつくられたものである。トリトンが注目されるのは、陽子を吸収して特別に安定なヘリウム原子核を生成する核融合反応や二重水素との核反応によって、それぞれ2000万、1760万電子ボルトという大きなエネルギーが解放されることが知られているからである。核融合エネルギーを利用する方途を探る場合に、欠かせない原子核とみなされている。

[坂東弘治・元場俊雄]


トリトン(ギリシア神話)
とりとん
Triton

ギリシア神話の海の神。ポセイドンとアンフィトリテの子で、下半身は魚形(または蛇形)で、上半身は人の姿をとる。普通、海底の宮殿に住むとされるが、ボイオティア近辺の河川がもともとの故地であるという。海が穏やかなときには、海面に浮かび上がってほら貝を吹き鳴らす。伝説では端役でしか登場しないが、その本来の神格はかなり古く、トリトンという名は水と深い関連をもつと考えられている。早くからポセイドンの配下に属しているが、時代が下るにつれ、アフロディテやネレイスたちにまつわりついて忠勤に励むトリトンの一家が現れ、その名も複数形トリトネスTritonesになる。またヘレニズム時代以降は、トリトンはアフリカのリビアにあるトリトニス湖に住むと考えられた。彼の姿は古くから壺絵(つぼえ)やレリーフに好んで取り上げられている。

[伊藤照夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トリトン」の意味・わかりやすい解説

トリトン
Triton

ギリシア神話の海神。ポセイドンアンフィトリテの息子とされ,上半身は人間,下半身は魚の形,ほら貝を吹鳴らす姿で表わされることが多い。他の海神たちと同様,予言の能力をもつと考えられた。1柱でなく,多数のトリトンがいて,群れをなしポセイドンに従うとみなされることもある。

トリトン
Triton

海王星の,内側の衛星。 1846年 W.ラッセルが発見。光度 14等,直径約 2700kmで衛星中最も大きなものの一つ。公転周期は5日 21時間3分で,逆行している。軌道面は海王星の赤道に対して 159.9°傾いている。

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