イギリスの天文学者、理論物理学者。北イングランドのケンダルで12月28日に生まれる。マンチェスター大学、ケンブリッジ大学で物理学を学び、1906年グリニジ天文台の助手となり、恒星系の系統的運動の観測およびその理論的解析を行った。1913年ケンブリッジ大学教授、翌1914年ケンブリッジ天文台長となり、1944年11月22日に死去するまでその地位にあった。
1916年ごろから恒星の内部構造論と大気構造論の開拓に精力を注ぎ、放射輸送の理論、恒星の質量光度関係やケフェウス型脈動変光星の周期光度関係といった経験則を理論的に導いた。恒星の力学的・熱的平衡の理論をもとに、エネルギー源の問題も考察し、質量エネルギーの重要性に言及、原子核エネルギー説の先駆をなした。1926年の『恒星内部構造論』The Internal Constitution of the Starsは、現在この分野の古典となっている。
また、一般相対性理論が発表(1916)されると、その意義にただちに気づき、当時イギリスにおいては評価が低かったこの理論のためにひとり奮闘した。1919年の皆既日食の際には、隊長として観測を指導し、太陽の重力による光の経路の湾曲を発見、これは一般相対性理論の検証として多くの関心を集めた。さらに1925年には白色矮星(わいせい)のスペクトル線の重力による赤方偏移を観測するなど、一般相対性理論の天体現象による検証に大きな寄与をした。こうした活動の一方で、一般相対性理論の理論的展開を進め、1923年には『相対論の数学的理論』Mathematical Theory of Relativityを著した。またハッブルによる銀河スペクトルの赤方偏移・距離関係発見の重大さを見抜き、相対論的宇宙論の研究を行い、さらに1930年代に理論的に明らかとなった星の終末におけるブラック・ホール形成をめぐる議論にも関与し、シュワルツシルト面がブラック・ホールの性質をもつことを最初に明らかにした。しかしブラック・ホールの実在性には否定的態度をとった。
クェーカー信者で、一生を独身で通し、晩年には物理定数の理論、統一場理論、認識論などに没頭した。著書には前出のほか、『物理科学の哲学』The Philosophy of Physical Science(1938)、『基礎理論』Fundamental Theory(1946)の哲学書や、『空間・時間・重力』Space, Time and Gravitation(1920)などの解説書がある。
[佐藤文隆]
イギリスの天体物理学者。北イングランドのケンダルに生まれ,ケンブリッジ大学に学ぶ。1906年グリニジ天文台助手,13年ケンブリッジ大学教授,翌年同天文台台長となり,終生この職にあった。恒星内部構造論,恒星進化論に大きな足跡を残し,とくに彼の内部構造理論に基づいて導かれた恒星の質量と光度の関係は観測事実をみごとに説明し,恒星の本質を解明する道を開いた(1924)。また白色矮星(わいせい)についても構造論的な解釈を下した。これらの功績により,30年にナイトの号を受けた。後年,相対性理論に多大な関心を示し,さらには場の理論および認識論に立脚する自然科学論を展開した。著書に《相対性理論の数学理論》(1923),《恒星内部構造論》(1926),《物理的世界の本質》(1928),《物理哲学》(1938),《基礎理論》(1946)などがある。
執筆者:小平 桂一
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…彼らは恒星の内部における温度や圧力の分布を計算し,恒星が自分自身の重みにもかかわらず,つぶれてしまわないほどの高温,高圧になっていることを示した。その後1920年ころになって,A.S.エディントンは,恒星の内部における熱エネルギーの流れを論じ,恒星の光度(明るさ)を説明し,26年有名な《恒星内部構造論》を出版した。しかし星の光のエネルギー源は何であるかがわかったのは,30年代に入って原子核の物理が一応明らかになってからである。…
…超巨星は主系列から進化した星で,その大きさが星としての上限に達したものと考えることができる。A.S.エディントンは星自身の重力により中心に向かう力よりも放射圧による外向きの力が大きくなると星は不安定となり,重力加速度が星の半径の2乗に逆比例することから,これにより星の大きさの上限が決まると考えた。事実,今日知られている超巨星はすべてこの〈エディントン限界〉よりも小さい。…
※「エディントン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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