エベンキ(民族)(読み)えべんき(英語表記)Эвенк/Evenk

  • 民族

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

シベリア、中国東北地方北部の代表的な少数民族。エベンクともいう。アルタイ語族ツングース・満州(洲)語群に属し、北方ツングース語に属する言語をもつ。人種的には北モンゴロイド人種に属し、一般的に中位の身長、皮膚は黄白色、毛髪は黒色で直毛、顔は平らで頬骨(ほおぼね)が突出している。かつてはツングース(トゥングース)、オロチョン、ビラール、マネギルの名で知られていたが、現在ではロシア、中国ともに、比較的広く使われている自称である「エベンキ」(鄂温克)を公称としている。ただ自称にはこのほかにも、レナ川、ビチム川各流域でイレ、ザバイカルから中国東北地方、モンゴルとの境界付近でオロチョン、中国東北地方の一部でヤクート(祖先がヤクーチア出身と伝える)といった名称が使われ、さらにモンゴル、中国東北地方で牛馬を飼って定住する者の間でマネギル、クマルチェン、ビラール、ソロンといった名称も使われた。分布はエニセイ川以東の東シベリア全域と中国東北地方北部、モンゴル北部、沿海地方、樺太(からふと)(サハリン)北部に及び、その面積は全シベリアの70%にも達する。しかし人口はきわめて希薄で、ロシアに2万9901(1989)、中国に2万6379(1990)がいるにすぎない。ただこの少ない人口でこれだけの広大な地域に拡散したのは、トナカイ飼養が普及してからといわれ、トナカイを交通手段にすることで、主生業である狩猟の活動範囲が拡大したことによる。行政的には比較的人口の稠密(ちゅうみつ)な地域に、ロシアではエベンキ自治管区、中国では鄂温克族自治旗が形成されている。

[佐々木史郎]

生業

エベンキの主生業は狩猟とトナカイ飼養であるが、南部では牛馬の牧畜、農耕も行われる。狩猟のおもな獲物は食用毛皮用として野生トナカイ、オオジカ、ヘラジカ、アカシカ、ノロ、ハンダカン、クマなどであり、交易用の毛皮獣としてクロテン、テン、リスなどである。現在の狩猟道具はもっぱら銃であるが、近年まで槍(やり)、弓矢、わながよく使われ、とくにパリマーとよばれる薙刀(なぎなた)状の武器は藪(やぶ)に道を切り開いたり、クマと格闘するときなど広く使用された。狩りに出かけるときはトナカイか馬に乗り、猟犬を連れて行くが、冬から春先にかけてはスキーを履く。エベンキのトナカイ飼養は、1世帯当り30頭から50頭ほどしかもたない小規模なものである。食糧はおもに狩猟漁労活動で得て、飼養トナカイを食用にするのはまれであり、搾乳して乳製品を食用にする。しかし一般に飼養トナカイは交通手段であり、荷駄用、騎乗用である。北部ではそりにもつなぐ。彼らの騎乗法は特徴的で、柔らかい鞍(くら)を肩甲骨の上に置き、右側から乗り、右手に持った杖(つえ)で支え、左手に手綱を持つ。これは彼らのトナカイの体格が馬に比べて小さく弱いため、馬のように背骨上に乗れないからである。南部で馬を飼う者のなかには、馬をトナカイと同じように使う者がいる。家畜の世話は北部のトナカイ飼養民では狩猟とともに男の仕事であるが、南部では女の仕事である。

[佐々木史郎]

衣食住

衣服は伝統的には各種の皮革、毛皮製の外套(がいとう)、胸当て、ズボンからなるが、現在は西欧風の衣服が主流である。住居も本来は木を円錐(えんすい)形に立て並べた上に、夏は白樺(しらかば)樹皮、冬は毛皮を巻き付け、上部に煙穴を設けたものであったが、いまでは木造家屋に定住する者が多い。食糧は狩猟漁労活動で得た肉類や魚類が多い。生食が好まれ、貴重なビタミン源にもなっている。魚では生食のほかに発酵させて酸っぱくしたものが美味とされ好まれる。しかし現在では野菜、穀類の利用も増えている。

[佐々木史郎]

社会構造

エベンキの社会構造は父系氏族が基礎にあった。同一氏族に属する家族は互いに協力しあい、定期的に開かれる氏族会(スグラーン)に出席して今後の方針を決め、首長を選出した。氏族外婚は厳守され、同一氏族内の結婚は大罪とされたが、逆に婚姻関係の認可という形で氏族の分派独立が認められることもあった。結婚に際しては婿方の氏族から嫁方の氏族に婚資が支払われ、婿が嫁の家にしばらく滞在してのち、嫁入りの儀式を行い、新居を営んだ。このような氏族組織は、17世紀にロシア人が接触を始めたころには盛んだったが、新しい猟場、遊牧地を求めての移動や、ロシア人、中国人などの影響によって家族ごとに分解し、19世紀には婚姻規定を除いてはその機能の大半を喪失していた。

[佐々木史郎]

宗教

エベンキの宗教はシャマニズム(シャーマニズム)、精霊崇拝、動物儀礼が中心である。エベンキのシャマン(シャーマン)は多数の革紐(かわひも)、鐘、鈴、ビーズ、金属板などで装飾した衣装をまとい、トナカイ皮の太鼓をたたいて精霊と交信し、病気の治療、予言などを行った。彼らは1930年代まではエベンキの間で大きな影響力をもっていたが、それ以後医療の普及や、コルホーズの組織化などにより急速にその力を失った。しかし現在でも少数ながら残っており、細々と活動を続けている。動物儀礼にはクマ、オオカミ、トラ、ワシ、カラスなどに対する儀礼や崇拝があるが、とくに熊(くま)送りが重要で、いずれも狩猟の成功を願い、感謝するものである。また各種タブーも多く、とくに女性の狩猟用具への接触は狩猟の失敗につながるとして厳しく禁じられていた。しかし、現在ではこのタブーも廃され、多くの優れた女性狩人(かりゅうど)が活躍している。

[佐々木史郎]

『B・A・トゥゴルコフ著、斉藤晨二訳『刀水歴史全書7 トナカイに乗った狩人たち』(1981・刀水書房)』『村松一弥著『中国の少数民族』(1983・毎日新聞社)』

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