オコジョ(読み)おこじょ(英語表記)stoat

翻訳|stoat

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オコジョ」の意味・わかりやすい解説

オコジョ
おこじょ
stoat
ermine
[学] Mustela erminea

哺乳(ほにゅう)綱食肉目イタチ科の動物。ほぼ北緯45度以北のユーラシア、アメリカ大陸の全域に分布するほか、グリーンランド東部にも生息する。日本では北海道と青森県のほか、東北、関東、中部地方の高山にいる。ヤマイタチともよばれ、また北海道ではエゾイタチといわれる。体長24~29センチメートル、尾長8~12センチメートル。体色は夏毛と冬毛で違い、夏は背がチョコレート色、のどから腹は白、冬は全体が白になる。ただし尾の先端のみ四季を通じて黒い。イイズナに似ているが、やや大きく、尾が長く、先端が黒いことが違う。この体色変化は気温に関係があり、温暖な地方では白化せず、極地では通年白い個体がいる。分布範囲内では森林、草原、人家の近くなど、さまざまな環境におり、コケや草を敷き詰めた巣をつくるが、かならずしも穴や岩のすきまにだけでなく、露出していることもある。日中でも活動するが、おもに夜行性。主食はネズミハムスターレミングなどであるが、小鳥やウサギカエルも食べる。単独生活者で約30ヘクタールの縄張りテリトリー)があり、その中の木の根や石に肛門腺(こうもんせん)からの分泌物を塗り付ける習性がある。交尾は暖かい間に行われるが、冬まで受精卵は発育せず(着床遅延)、出産は3~5月で、3~13子を産む。出産巣は穴の中につくられ、子は6週まで閉眼で、母親に育てられる。その後の成育は早く、とくに雌は4か月で交尾可能となる。ネズミを襲うとき、体をくねらせてダンスをして催眠術をかけるといわれるが、自身もショックに弱く、大きな音だけで死んでしまうこともあるほどで、飼育はむずかしい。

[朝日 稔]

利用

オコジョの冬毛は純白に近く、ヨーロッパではアーミンとよばれ、そのコートは祭礼のときの貴族のシンボルとして欠くことのできないものであった。とくにシベリア産は上質で、ロシア帝国の財政を支えたといわれる。夏毛はストートとよばれ価値が低い。またネズミやウサギの天敵となるため、古代ヨーロッパでもたいせつにされていたが、19世紀にニュージーランドなどに移入され、害獣の駆除毛皮輸出に役だっている。日本では狩猟獣に指定されておらず、捕獲禁止である。

[朝日 稔]

民俗

オコジョは、姿や挙動から神秘的な動物とされる。長野県や群馬県では山の神の使者と伝えられ、ヤマノカミノエンコロとかヤマノカミノコロ(山の神の犬の意)などともよばれている。猟師は、オコジョに会うとその日は1日猟がないといって嫌がる。猟犬がオコジョの鳴き声を聞くとそれを追い回し、使いものにならないからだという。とらえたり追ったりすると祟(たた)りがあるといわれる。オコジョは人に憑(つ)いて精神異常をおこすともいう。夫が殺したオコジョが妻に憑いたという話もある。特定の家筋で飼育する小動物が人に憑くという、クダ(中部地方など)あるいはオサキ関東地方)と称する憑き物の正体も、だいたいはオコジョである。

[小島瓔

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改訂新版 世界大百科事典 「オコジョ」の意味・わかりやすい解説

オコジョ
ermine
Mustela erminea

細長い体と短い四肢をもち,狭い隙間や巣穴に潜む獲物を巧みに捕食する食肉目イタチ科の哺乳類。ヤマイタチともいう。分布域はユーラシアと北アメリカの北部,グリーンランドで,日本では本州中部以北の山岳の亜高山帯以上の高地と北海道の低地に見られる。体の大きさは雌雄で異なり,体長は雌17~27cm,雄18~33cm,尾長雌7~10cm,雄8~12cm,体重雌160~310g,雄220~450g。夏毛は背側が灰褐色~褐色,腹側が白色,冬毛は一年中黒い尾端を除き全身白色。山地,森林,岩場,草地などに生息し,日中は木の根もとの洞や岩穴などに潜み,ふつう夜間,ときには昼間も活動する。動きは敏しょうで,はねるように走り,木登りと泳ぎもうまい。感覚が鋭敏で,遠くの獲物のたてるかすかな音や,土や雪の下の獲物のにおいも察知し,即座に襲う。獲物はネズミなどの齧歯(げつし)類,ウサギ,モグラ,小鳥などで,ネズミを追って雪の中にトンネルを掘ることがある。雌は春に4~7子を生む。白色の冬毛の毛皮はアーミンと呼ばれ価値が高い。
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百科事典マイペディア 「オコジョ」の意味・わかりやすい解説

オコジョ

エゾイタチ,ヤマイタチとも。食肉目イタチ科の哺乳(ほにゅう)類。体長雌17〜27cm,雄18〜33cm。尾雌7〜10cm,雄8〜12cm。雌は雄より小さい。イイズナに似るがやや大きい。夏毛は背面が灰褐色〜褐色,腹面は白色,冬には尾の先の黒色部を残し,全身白色となる。ユーラシア,北アメリカ北部,グリーンランドに分布し,日本では本州中部以北の亜高山帯以上の高地と北海道の低地にすむ。おもにネズミを食べ,ときにウサギなどを襲う。1腹4〜7子。白色の冬毛の毛皮はアーミンと呼ばれ,高級品。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オコジョ」の意味・わかりやすい解説

オコジョ
Mustela erminea; stoat

食肉目イタチ科。エゾイタチ,ヤマイタチともいう。体長 13~29cm,尾長5~12cm。夏毛は灰褐色で,喉,胸,腹部は淡色であるが,冬毛は全身純白で,尾の先端が黒い。樹洞,小穴,岩のすき間などにすみ,ノネズミ,ノウサギ,鳥類などを捕食する。木登りも泳ぎもうまい。昼間活動し,ほとんど人を恐れず,亜高山帯や高山帯にしばしば姿をみせる。ユーラシア大陸,北アメリカと,日本では北海道,本州中部以北に分布する。

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世界大百科事典(旧版)内のオコジョの言及

【毛皮】より

…ハドソン湾会社が作られ,現地のインディアンと,たとえば砂糖2ポンドとビーバー1匹の割合で交換された。 アーミンermineオコジョ(エゾイタチ)の毛皮。ロシア北部,シベリア,北ヨーロッパの極寒地に生息するものが上質。…

【毛皮】より

…【井上 泰男】
[ロシア]
 毛皮は古来ロシアの重要な輸出品の一つだった。ロシア平原に広がる深く大きな森林は,東方諸国やヨーロッパで珍重された種々の毛皮獣,すなわちクロテン,テン,オコジョ,リス,ビーバー,カワウソ,キツネなどの宝庫だったからである。毛皮類はすでにキエフ時代(9~12世紀)の初期からバルト海経由で西ヨーロッパに,ボルガ川・カスピ海経由で東方諸国に,ドニエプル川・黒海経由でビザンティン帝国などに広く輸出されていた。…

※「オコジョ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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