カイニン酸(読み)カイニンサン

化学辞典 第2版 「カイニン酸」の解説

カイニン酸
カイニンサン
kainic acid

(2S,3S,4S)-2-carboxy-4-isopropenyl-3-pyrrolidineacetic acid.C10H15NO4(213.23).紅藻一種である海人藻Digenea simplexに含まれる(-)-α-カイニン酸のこと.駆虫剤(虫くだし)としての生理活性があり,以前は,小・中学校において寄生虫の集団駆虫に使用された.神経伝達物質グルタミン酸に構造が似ているため,グルタミン酸の受容体を刺激し,線虫や条虫運動を麻ひさせる作用がある.また,ほ乳動物に対しても神経興奮性作用があり,大量投与すると大脳海馬の特定領域が破壊される.融点251 ℃(分解).-14.1°.水に可溶,エーテルに不溶.pKa1 2.05,pKa2 4.30,pKa3 10.08.[CAS 487-79-6]

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改訂新版 世界大百科事典 「カイニン酸」の意味・わかりやすい解説

カイニン酸 (カイニンさん)
kainic acid

1953年村上信三,竹本常松によって,駆虫薬として古くから用いられていたマクリカイニンソウ)の有効成分として抽出されたもので,その後合成されてカイチュウ回虫)に,ときにギョウチュウ蟯虫),ベンチュウ鞭虫)にも用いられる。カイチュウの運動を初め興奮させ,後,神経および筋肉に作用して痙攣けいれん),麻痺をおこし,運動能力を低下させ,腸管の蠕動(ぜんどう)によって体外に虫体を排出させる。サントニンとの併用によって相乗的な効果が得られる。ほかの駆虫薬と比べて薬用量での副作用が少ない。

 近年は駆虫薬としてよりも,このものの神経細胞,とくにグルタミン酸ニューロンに対する特異的障害作用を利用して,脳内特定部位のニューロンを破壊することによって神経機能を調べたり,脳障害の病態モデルを作製するなど神経化学的な研究のための試薬として応用されている。
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百科事典マイペディア 「カイニン酸」の意味・わかりやすい解説

カイニン酸【カイニンさん】

マクリの有効成分。人体寄生虫カイチュウの運動を最初興奮させ,のち麻痺(まひ)させるため,カイチュウ,ときにギョウチュウの駆除に用いられたが,現在は使われない。
→関連項目駆虫薬

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カイニン酸」の意味・わかりやすい解説

カイニン酸
カイニンさん
kainic acid

C10H15NO4マクリ (海人草)に含まれるアミノ酸の一種。回虫駆除薬。理論的に8種類の光学異性体が存在するが,駆虫有効成分はL-α-カイニン酸である。

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デジタル大辞泉プラス 「カイニン酸」の解説

カイニン酸

薬に含まれる成分のひとつ。回虫、蟯(ぎょう)虫、鞭虫などの駆虫に用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内のカイニン酸の言及

【駆虫薬】より

…黄視,頭痛,吐き気などの副作用がみられる。(2)マクリおよびカイニン酸 紅藻類のマクリが煎剤として用いられてきたが,その有効成分カイニン酸が抽出あるいは合成され,サントニンとの合剤がカイチュウ駆除に用いられる。(3)ピペラジン カイチュウ,ギョウチュウに有効。…

※「カイニン酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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