カササギ(その他表記)magpie
Pica pica

改訂新版 世界大百科事典 「カササギ」の意味・わかりやすい解説

カササギ (鵲)
magpie
Pica pica

スズメ目カラス科の鳥。別名カチガラス。ユーラシア大陸の中緯度地帯のほぼ全域,北アフリカ,北アメリカの西部などに広く分布する。中国,朝鮮半島にはたくさん生息しているが,日本には17世紀に朝鮮から人為的に移植され,それ以来,九州の筑紫平野繁殖している。ほとんど移動はしない。国の天然記念物全長約45cm。頭,胸,背,雨覆,尾などは金属光沢のある黒色で,肩羽,初列風切の大部分,腹,腰の中央は白い。くちばしと脚は黒色。筑紫平野の田園地域にのみ分布し,農耕地内や屋敷林の高木上に小枝を集めて,側部に出入口のある大きな巣をつくり,繁殖する。1腹の卵数は5~8個,抱卵,育雛(いくすう)は雌雄とも行う。食性は雑食で,果実や種子などの植物質,昆虫,カエル,カタツムリなどの動物質の両方をよく食べる。なお,北アメリカのカリフォルニア州の平野部に局地的に分布しているキバシカササギP.nuttalliは,羽色と生態はカササギと同じであるが,くちばしが黄色い。この種をカササギと同種に分類する人もある。
執筆者:

カササギはヨーロッパではカラスと並んで不吉な鳥とされ,ことに鳴声がきらわれる。そのまだら模様も邪悪視され,キリストの死を悼むことを拒否した罰とも,〈ノアの方舟〉に乗らず人間のおぼれる様を見て嘲笑した罰ともいわれている。またオウィディウスの《転身物語》に,歌を得意としたピエリデスPieridesがムーサたちに歌比べを挑み,敗れてカササギに変身させられたとある。この鳥が魔女や悪魔に奉仕するという俗信は各地で根強く,スウェーデンでは魔女が外出するときにはカササギに変身すると信じられている。なお,英名マグピーは古くmaggot-pieとつづられた。maggotは女性名のマーガレット,pieはまだらの意味である。なお,ライフル射撃で標的の外から2番目の圏に命中した弾丸をマグピーと呼ぶが,これは合図に白黒まだらの旗をあげるためである。
執筆者: 一方,朝鮮をはじめとする東アジア北部ではカササギは吉鳥とされる。カラスの鳴声が陰気なのに比べてカササギの声は軽くすがすがしいと感じられている。家のそばでカササギがなくと,朝鮮ではだれか親しい人が訪れる吉報だとされる。高麗時代の女性の歌辞〈済危宝〉には〈かささぎが垣根に鳴き,蜘蛛が寝床の上に糸をひきつつ降りてくるから,課役にいって家を留守にしていた夫が帰る良いしらせ〉と歌っている。カササギの異名カチガラスは,朝鮮語のカチKkach`i(カササギ)に由来するものであろう。韓国では国鳥に指定されている。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カササギ」の意味・わかりやすい解説

カササギ
かささぎ / 鵲
magpie
[学] Pica pica

鳥綱スズメ目カラス科の鳥。アジアの大部分とヨーロッパと北アメリカ西部に分布する全長約45センチメートルの尾の長い鳥で、肩と腹部が白いほかは主として金属光沢のある黒色をしている。日本では佐賀平野を中心に北九州西部の低地にのみ周年生息するが、これは1600年ごろに大陸から輸入放鳥されたものがすみ着いたとする説がある。九州では農村の集落などにつがいで狭い縄張りをもって半集団的に樹上に営巣する。巣はカラス科の他種と異なり径1メートルほどの大きな球形で、出入口は側面にある。1腹の卵数は5~8個。成鳥は一年中つがいで生活するが、巣立った若鳥は秋冬の間は群れになって暮らしている。採食は主として地上か低木で行い、ほかのカラス科の鳥と同じく雑食性である。また、カチカチと聞こえる鳴き声からカチガラス、佐賀県を中心に生息するためヒゼンガラスの別名をもつ。

 カササギ属にはもう1種キバシカササギP. nuttalliがあって北アメリカ西岸に生息する。アメリカでは、カササギがblack-billed magpieといわれるのに対し、本種はyellow-billed magpieとよばれる。

[浦本昌紀]

民俗

ヨーロッパでは、カササギはおしゃべりで、前兆を表す鳥とされている。フィンランドには、カササギは神の意志に逆らって人に翌日死ぬことを告げたので、神はその禁を忘れさせないためにと舌を抜き、長い尾をつけたという由来譚(たん)がある。一般には吉兆を示す鳥とするが、二面性もあり、ドイツなどでは悪魔的な鳥とされる。フィンランドにはカササギは悪魔が創造した鳥で、その後神が認めたという伝えもある。イギリスでは2羽で飛んでいると吉兆、1羽で飛ぶと凶兆という。つがいで生活するところに吉鳥の思想が生まれている。中国にも「鵲喜(じゃっき)」(良い前兆の意)という語があり、カササギの鳴き声は吉事の前触れとする。また古代から七夕(たなばた)の伝承とも結び付き、1年に一度、7月7日に牽牛(けんぎゅう)星と織女(しょくじょ)星が出会うときには、カササギが2羽で天の川に橋を架けて渡すという伝えもある。同じ伝えは朝鮮にもあり、この日家の近くでカササギをみつけると、怠け者といって追い回すという。この七夕の伝説は、日本でも平安時代から知られており、『大和(やまと)物語』に「かささぎの渡せる橋」、『枕草子(まくらのそうし)』に「かささぎの橋」などとみえている。

[小島瓔

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カササギ」の意味・わかりやすい解説

カササギ
Pica pica; Eurasian magpie

スズメ目カラス科。全長 45cm。頭,胸,背,,尾は黒く,金属光沢のある緑色や紫色のつやがある。腹,肩,翼の羽の半分先が白い。尾は長い。大きな木の上や電柱上に枯れ枝を使って巣をつくる。雑食性で,昆虫類,小型哺乳類,木の実などを食べる。秋冬には群れをつくって生活する。アフリカ北西端,ヨーロッパから東アジアにかけての地域とロシア東部のカムチャツカ半島などに広く繁殖分布する。日本では九州地方佐賀平野および筑後川下流域にのみ繁殖分布していたが,今日では北海道本州四国地方にも生息している。九州に生息するカササギは 16世紀に朝鮮半島から持ち込まれたとも考えられているが,本州や北海道に生息する鳥の起源は不明である。

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百科事典マイペディア 「カササギ」の意味・わかりやすい解説

カササギ

カラス科の鳥。翼長20cm。地色は黒緑で光沢がある。腹部,肩は白。ユーラシア〜北米の中部に分布。日本では佐賀平野を中心として北九州に分布し,天然記念物。日本原産説と,16世紀末に朝鮮から移入されたとの両説がある。雑食性。高い枝上に枯枝を用いて大きな巣を作り,2〜5月ごろ5〜6卵を産む。

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事典・日本の観光資源 「カササギ」の解説

カササギ(カチガラス)

(佐賀県)
さが天下逸品 佐賀百選」指定の観光名所。

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世界大百科事典(旧版)内のカササギの言及

【七夕】より

…旧暦の7月7日に行われる年中行事。中国を中心に,日本,朝鮮にも広がる。〈しちせき〉とも読まれる。7月7日を特別の祭日とする観念は,おそらく古い農耕儀礼に起源をもつのであろうが,文献資料にのこるものとしては後漢時代の崔寔(さいしよく)《四民月令》が最も古いものの一つである。そこには,この日に書物の虫干しをするほか,河鼓(かこ)(牽牛)と織女の二星が会合するのにあわせて,人々は願いごとをするという(牽牛・織女)。…

※「カササギ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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