カザンザキス(読み)かざんざきす(英語表記)Nikos Kazantzakis

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カザンザキス」の意味・わかりやすい解説

カザンザキス
かざんざきす
Nikos Kazantzakis
(1883―1957)

ギリシア詩人小説家。クレタ島生まれ。人間の真の自由とはなにかを生涯にわたって探求し、作品も筋の展開より思想性に重きが置かれている。代表作は、ホメロス英雄叙事詩題材と構想を借りて現代人の苦悩を述べた哲学的大叙事詩オデュッセイア』(1938)であるが、彼が国際的名声を博したのは小説によってである。映画化(1965)により世界に知られた『その男ゾルバ』(1947)は、クレタ島の海岸を舞台アレクシス・ゾルバスなる得体(えたい)の知れぬ老人が、主人公の青年に真の自由とはなにかを教える一種の青春小説。第一次世界大戦後トルコ領から追われるギリシア人難民の辛苦を描いた『ふたたび十字架につけられるキリスト』(1955)は『宿命』(1957)の題で映画化された。ほかに戯曲、哲学的なエッセイ古典の現代語訳なども数多い。戦前、戦後の2回来日(1935、57)、旅行記を書くなど日本紹介の功績も大きい。

森安達也

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改訂新版 世界大百科事典 「カザンザキス」の意味・わかりやすい解説

カザンザキス
Níkos Kazantzákis
生没年:1883-1957

現代ギリシアの詩人,作家,思想家。クレタ島のイラクリオンに生まれた。若くしてパリに遊学中ベルグソンの哲学に心酔したのをはじめとして,ニーチェからキリスト教仏教などに次々に没入,人間の自由の意味を追い求めた。その成果は1938年に完成した《オデュッセイア》に集約的に表現された。これはホメロスの叙事詩の後日譚という形で,この英雄の遍歴をホメロスの3倍の分量にわたって書きつづった壮大な詩作品である。小説の分野でも傑作が多く,《その男ゾルバ》のタイトルで映画化(1965)された《アレクシス・ゾルバスの数奇な生涯》(1946)や,《再び十字架にかけられたキリスト》(1948)などは各国語に訳されている。精力的な旅行家で,35年には来日。中国旅行から戻る途中ドイツで客死した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カザンザキス」の意味・わかりやすい解説

カザンザキス
Kazantzakis, Nikos

[生]1883.2.18. クレタ島イラクリオン
[没]1957.10.26. フライブルク
ギリシアの詩人,小説家,劇作家。幅広い教養と偏見のない目をもって人間の自由とは何かを生涯追求した。ホメロスに題材をかりて現代人の苦悩を描いた 24巻3万 3333行の長編叙事詩『オデュッセイア』 Odysseia (1938) が代表作。小説ではクレタ的人間像によって大きな反響を呼んだ『その男ゾルバ』 Vios kai politeia tou Alexe Zorba (47) およびギリシア人難民の辛苦と立場を異にする同胞同士の醜い葛藤をあばきだした『再び十字架にかけられるキリスト』O Christos xanastauronetai (55) ,『神の貧民-アッシジの聖フランシスコ』O ftochoulis tou Theou (56) が最も著名。戯曲はキリスト,ユリアヌス帝など歴史上の偉人の苦闘を扱ったものが多い。また『グレコへの報告』 Anafora ston Greko (61) は断片的な自伝もしくは遺作といった性質をもつ。そのほか,古典の翻訳や旅行記も多数。

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百科事典マイペディア 「カザンザキス」の意味・わかりやすい解説

カザンザキス

現代ギリシアの作家。宗教的・哲学的思索を基底に,長詩《オデュッセイア》,生地クレタ島を舞台にした小説《アレクシス・ゾルバスの数奇な生涯》(1947年,のち《その男ゾルバ》のタイトルで映画化),《再び十字架にかけられたキリスト》(1955年)等を書く。各国文学の翻訳も行った。

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世界大百科事典(旧版)内のカザンザキスの言及

【ギリシア】より

…今日学校教育はディモティキでおこなわれているが,文学作品,学術論文,保守系の新聞等ではいまだにカタレブサが用いられることも多い。散文ではカザンザキス,韻文ではセフェリスエリティス(両者ともノーベル文学賞受賞)などが世界的に知られ,その作品は各国語で紹介されている。【真下 とも子】【村田 奈々子】。…

【ギリシア文学】より

…シケリアノスÁngelos Sikelianós(1884‐1951)も国家などにはかまわずひたすらに自然と宇宙と神秘をきわめて美しく歌い,完璧な抒情詩人をめざした。N.カザンザキス(1883‐1954)も国家をはるかに超越した。このクレタ生れの巨人は近代ヨーロッパの哲学からキリスト教,イスラム教,仏教までを走りまわって人生の意味を追い求め,それを多弁な詩行と散文で表現しつづけた。…

※「カザンザキス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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