翻訳|cameo
工芸美術において,陰刻(インタリオintaglio)に対して陽刻(浮彫状)の彫石を指す言葉として13世紀以来ヨーロッパで使用されている。ギリシア語のカマイkamai(低い起伏の意)に由来するとする説もあるが,定説はない。一般には貴石もしくは練ガラスに浮彫を施した装飾品や装身具を指すが,巻貝の浮彫装飾品のみを指す場合もある。美術史におけるカメオは,西アジアおよび古代エジプトの陰刻彫石による印章などに由来し,前4世紀ころ,ギリシア人によって成立した。前3世紀には,ヘレニズム諸王国の宮廷において盛んに制作され,水晶,アメシスト,ザクロ石,紅縞メノウ,ラピスラズリ,トルコ石などを材料とした。とくにメノウのごとく異なる色層を有する貴石の場合,地を白の色層まで彫り下げ,形像はその上層の異なる色層に浮彫し,色の異なりによる形態の明確化を意図した(色層を逆に利用することもある)。ヘレニズム時代の優品としては〈ファルネーゼの皿〉(ナポリ国立考古博物館),ローマ時代のものには〈ゲンマ・アウグステア〉(ウィーン美術史美術館),〈フランスのカメオ〉(パリ,ビブリオテーク・ナシヨナル,メダル室)などがある。また練ガラスのカメオとしては後1世紀の〈ポートランド・バーズ〉(大英博物館)が代表作。ビザンティン帝国でも制作されたが,中世ヨーロッパでこの彫技はとだえ,ルネサンス時代ロレンツォ・デ・メディチの創立したオピチーナ(貴石工房)において再興する。その後,新古典主義時代にも再び隆盛をみるが,古代カメオのごとき美術的価値を有するものは少なく,装身具としての巻貝製カメオが主流となった。
→彫玉
執筆者:青柳 正規
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
めのう、サンゴ、水晶などの宝石や貝殻や象牙(ぞうげ)などに浮彫りをしたカメオ細工。また、彫刻の手法で凹形彫刻(インタリオ)に対する凸形彫刻をいう。縞(しま)めのうや皿貝の縞を巧みに利用するもので、通常、暗色の層を背景にして、より明るい色層に浮彫りをする。おもに婦人の装身具に使われている。
起源は紀元前4世紀末といわれ、最古のものは古代エジプトにみられる。優れた作品を生んだ古代ギリシア・ローマを経て、技法はイタリアに受け継がれ、ルネサンス期にはめのうや水晶のカメオが盛んにつくられた。一方、イタリアン・ペッシァという貝殻を用いて、浮彫りはより繊細さを増した。19世紀になると、古いカメオが珍重され、ふたたび大流行をみる。ナポレオン帝政期には装身具はもとより、インテリアにまで用いられた。今日のカメオは、背景色に像が白く浮き上がるシェル・カメオが主で、茶褐色の背景はサルドニア貝、オレンジ色はアフリカ産のコルオウラ貝、バラ色はフロリダ近海のピンク貝などを用いている。市場の大半はイタリア産が占める。図柄は貴婦人のプロフィールやギリシア神が多く、天使、花、鳥など、優雅で古典的なモチーフを踏襲している。
[平野裕子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…また管状のビーズをつくり,祭礼の衣装につけた。イタリアで発達したカメオも装身具として有名であるが,これはマンボウガイ類やタカラガイ類の貝殻の色の層による違いを巧みに彫り分けたものである。 真珠層のよく発達したヤコウガイ(ヤクガイ)やアワビは,螺鈿細工の材料になった。…
…スカラベ尊重の風潮と封印目的の印章の習慣が結びつき,上部はスカラベ形で下部の平面に印影を彫刻して,押印の際には石が回転できるように考案された指輪も生まれ,着用目的が重視されるようになった。この時代に導入された技術的な革新は,純粋に着用目的の宝飾石であるカメオである。その図柄の大部分は人像で,メノウの2色の層を巧妙かつ効果的に彫り分けて立体感を出している。…
…奄美諸島以南~熱帯太平洋,インド洋に広く分布し,潮間帯下の岩礁にすみ,ヒトデを食べる。カメオの材料になる。イタリアの名産でとくにナポリで製作が盛んで,日本にも輸入される。…
…これらは高価な金属製で,さらにダイヤモンド(指輪),真珠(耳飾),オパール,エメラルドなどの珠玉がちりばめられていた。カメオ浮彫のようなより大衆的な装身具には,オニックスや碧玉などの準宝石が用いられた。彼女たちはまた髪形の流行にも敏感で,黒髪をはやりの金髪に変えようと脱色したり,かつらを使ったりもした。…
※「カメオ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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