キリスト教の信仰と思想のなかに社会主義思想をみいだし、それに基づいて資本主義の抱える社会労働問題の解決を図ろうとする思想と運動の総称。ただし資本主義の矛盾を批判し、教会事業の一環として労働組合や協同組合を設立するなどして社会労働問題の独自の解決を志向しているカトリック教会の活動は広義のキリスト教社会主義の一種とみられないことはないが、キリスト教社会主義とはいわない。したがってキリスト教社会主義は新教の国に限られている。その発端は1840年代の終わりごろイギリスで『キリスト教社会主義者』Christian Socialist誌(1849創刊)を中心に、社会主義は本来キリスト教の事業であるとして、労働者の自主的闘争を否定し、労働者の啓蒙(けいもう)活動や協同組合活動を展開したモーリス、キングズリー、ルッドローらの活動である。それはまもなく消滅したが、しかしスイス、オランダ、ドイツにも類似した活動が広がっていった。とりわけドイツでは、社会民主党の躍進に対抗して労働者階級への社会主義の影響を阻止するために、シュテッカーを中心とする保守的・国粋的なキリスト教社会主義や、F・ナウマンを中心とする自由主義的な福音(ふくいん)社会主義が19世紀後半に展開された。そして第一次世界大戦後ワイマール・ドイツでは、キリスト教社会主義の一つの注目すべき流れとして宗教的社会主義Religiöser Sozialismusがパウル・ティリヒを中心に主張された。それは、社会主義の宗教的根源を明らかにし、資本主義的な生産と消費の原子化された過程における人間の非人格化と物化の危険を指摘し、それを克服する神学とその実践的提言を行った。さらにそれは、社会主義を倫理的課題として規定して社会主義運動への意志の倫理的根拠づけを与えたことで、受動主義に陥っていたドイツ社会民主党の活性化に寄与するところがあった。
他方、新大陸のアメリカでも、1860年代から1890年代にかけて、プロテスタントの間でキリスト教社会主義が台頭していたが、1890年代にアメリカの神学校に留学中であった村井知至(ともよし)、安部磯雄(いそお)、片山潜(せん)がこれに影響されて帰国後、社会主義思想の研究と普及に努め、日本の創生期社会主義運動に大きな影響を与えた。しかし社会主義運動の成長とともに、キリスト教社会主義と同時に受容された社会改良主義やマルクス主義が運動の支配的潮流になるにつれて、キリスト教社会主義者は脇役(わきやく)に追いやられるか、脱落していった。その代表的な人は、上記の人々のほかに木下尚江(なおえ)、賀川豊彦(とよひこ)などである。
[安 世舟]
『古屋安雄・栗林輝夫訳『ティリッヒ著作集 第1巻 キリスト教と社会主義』(1978・白水社)』
19世紀半ばに資本主義の成熟とともに生じた社会問題,労働問題に積極的に関与することをキリスト教倫理の課題とした運動をさす呼称。ただし名称も概念もはっきりした規定はない。最初イギリスで,広教会に属するモーリスF.D.MauriceとキングズリーC.Kingsleyとが市民社会の個人主義と功利主義に反対して,自由・平等・兄弟愛による〈神の国〉の理想を掲げ,これは聖書・洗礼・聖餐に対応する倫理であると唱えた。その際R.オーエンやサン・シモンの社会主義の影響があったと見られる。第1次大戦後W.テンプルの指導により,バーミンガムで〈キリスト教政治・経済・市民生活に関する会議(COPEC)〉が開かれた。この運動はほぼ同時にヨーロッパ各国に起こり,ドイツではトートR.Todt,シュテッカーA.Stoecker,ナウマンF.Naumannらが指導して〈福音主義的社会主義会議〉を持った。アメリカでは19世紀末にバプティストの牧師ラウシェンブッシュが〈社会的福音〉を唱え,共産主義とは一線を画して,労働組合の結成や労働者の人権擁護のために働いた。日本では明治期に安部磯雄,片山潜,木下尚江らが社会主義研究会をつくり,のち賀川豊彦,杉山元治郎らがこれをついで日本農民組合を組織し,労働農民党を結成した(1925)。これらのキリスト教社会主義と呼ばれるものは,政治的には左傾化を排しほぼ社会民主主義の線で行動するのであるが,社会の教会化なり素朴な人道主義を動機とするにとどまって,福音理解の革新にまでは至らない。その点で,ラガーツL.Ragaz,クッターH.Kutter,初期のK.バルトの宗教社会主義は,マルクスが示す疎外の問題を神学の根本問題としてとらえ,教会の終末論的性格の自覚から近代批判と資本主義批判とを行っていることは注目される。
執筆者:泉 治典
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キリスト教に立脚した社会改良の運動。産業革命による深刻な社会問題の発生と社会主義労働運動の台頭に対して,教会が社会問題にとりくむべきことを主張し,労働者の悲惨な生活の救済,手工業者,農民の保護を唱えた。反自由主義的で,階級闘争,革命に反対し,労資の協調を説く。19世紀中頃イギリス,ドイツに起こり,オーストリアでは反ユダヤ主義的一大政党に発展した。
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…ユニテリアン教会の牧師の子として生まれたが,コールリジの影響を受けて国教会に改宗し,1840年,ロンドンのキングズ・カレッジの英文学,ついで神学教授に就任。ラドローJ.M.F.Ludlow,キングズリーらとともにキリスト教社会主義を提唱し,54年ロンドンに労働者大学を開校した。自由主義的な広教会派を代表し高教会派を批判し,他方永遠の刑罰を否定したため低教会の保守派から非難され,職を追われた。…
※「キリスト教社会主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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