キレート化合物(読み)キレートかごうぶつ

百科事典マイペディアの解説

キレート化合物【キレートかごうぶつ】

単にキレート,あるいはキレート錯体とも。錯化合物のうち,2座以上の多座配位子配位して環をつくっている化合物をいう。たとえば銅にエチレンジアミンNH2CH2CH2NH2(enと表す)が配位した[Cu(en)22(+/)など。金属イオンが配位子にはさまれた形からギリシア語のケーレー(カニのはさみ)にちなんで命名された。キレートをつくる配位子をキレート剤という。一般にキレートを形成すると通常の場合よりも安定性が増すため,各種キレート剤(EDTAなど)には安定剤,洗浄剤,硬水の軟化剤その他多くの有用な用途があり,キレート滴定なども行われる。天然にもキレート化合物は多数存在し,ヘモグロビン,葉緑素などはその例。(図)

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世界大百科事典 第2版の解説

キレートかごうぶつ【キレート化合物 chelate compound】

配位化合物のなかで多座配位子が配位してできたもの。キレート錯体あるいは単にキレートと呼ぶこともある。エチレンジアミンNH2(CH2)2NH2のような二座配位子が中心原子たとえば銅に配位するときには,一般に分子内の二つの窒素原子で一つの銅をはさむように結合して銅を含む環ができる(5員環,6員環が多い)。この環はエビやカニが物をはさんだ形に似ているので,〈はさみ〉や〈つめ〉を意味するギリシア語のケレchēlēからキレート環と呼ばれ,配位子はキレート配位子,キレート環を含む化合物はキレート化合物と呼ばれる。

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大辞林 第三版の解説

キレートかごうぶつ【キレート化合物】

〔キレート(chelate)は蟹かにの鋏はさみの意〕
配位子内の二個の原子が、蟹が二つの鋏で獲物を挟み持つような形で、中心の金属原子あるいはイオンに配位してできた化合物。クロロフィルやビタミン B12 などがその例。 EDTA などのキレート化剤は微量の金属の定量やその除去などに利用される。キレート。キレート錯体。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

キレート化合物
きれーとかごうぶつ
chelate compound

一つの中心金属イオンに、同時に二つ以上の配位座を占めて配位することのできる分子または多原子イオンを多座配位子と総称するが、これら多座配位子が一つの中心金属イオンに二つ以上の配位座で配位してできる錯体をキレート化合物という。略してキレートともいう。
 多座配位子は一般にキレート配位子とよばれ、金属イオンに配位したときは、図Aのような環を形成するので、これをキレート環とよんでいる。キレート配位子中で、金属原子に直接配位する原子すなわち配位原子は、窒素、酸素、硫黄(いおう)、リン、ヒ素などであることが多い。
 多座配位子のうち二つの配位座を占めるものを二座配位子、三つを三座、四つを四座、五つを五座、六つを六座配位子などとよんでいる。
 これらのうち二座配位子、たとえばエチレンジアミンやグリシンなどが金属イオンに配位するとき、図Bのように金属イオンをちょうどエビやカニなどのはさみで挟んでいるような形になっていることから、古くイギリス学派の人々によってキレートと名づけられたのが初めである。すなわち1920年ごろイギリスのモーガンG. T. Morgan、ドルーH. D. K. Drewらは、このような二座配位子を、ギリシア語のχηλ(甲殻類のはさみを意味する)にちなんでキレート団chelate groupとよび、キレート団を含む化合物をキレート化合物とよんだのである。しかし、この名称はしだいに広く用いられ一般化し、これらを含む化合物が多く研究されるのに伴い、さらに拡張されることになり、二座だけではなく、三座以上の多座配位子一般にも用いられるようになった。
 有機化合物にはキレート化合物が多く知られており、生物化学的に非常に興味ある物質も多く、分析化学で重要なもの、また実用的に有用なものなども多数ある。たとえばオキシヘモグロビンのキレート環の骨格は、図Cの(1)のようにFeに対する四座配位子であるし、クロロフィルでも同じような骨格がMgに配位している。非ヘム鉄タンパク質の一つであるルブレドキシンでは、図Cの(2)のような大環状キレート環がある。またビタミンB12はコバラミンともよばれ、図Cの(3)にみるようなコバルトのキレート化合物である。多くの青色ないし緑色染料および顔料として広く用いられているフタロシアニンは、たとえば図Dの(1)のようなキレートである。また硬水軟化剤として用いられるEDTA(エチレンジアミン四酢酸)のつくるキレートは、図Dの(2)のようなキレート構造をつくっている。[中原勝儼]

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