クシクラゲ(英語表記)comb-jelly

改訂新版 世界大百科事典 「クシクラゲ」の意味・わかりやすい解説

クシクラゲ
comb-jelly

有櫛(ゆうしつ)動物門Ctenophoraに属する種類の総称。体の表面に繊毛が櫛(くし)の歯のように並んだ櫛板(しつばん)をもっているところからこの名がある。腔腸動物刺胞動物)のクラゲのように体は寒天質で,一生の間海中で浮遊生活をするが,なかには他の動物や海藻に着生するものや,はって動く種類もある。形はかぶと形,ウリ形や帯状であって,傘形のものはない。多くの櫛板が縦に並んだ列が8本あり,櫛板の繊毛を波状に動かして移動する。大部分の種類は2本の長い触手をもっているが,収縮すると細長い触手鞘(しよくしゆしよう)という袋の中に収まってしまう。触手には多くの細かい小枝があり,それらの表面に膠胞(こうほう)という上端に粘着細胞が並んでいる器官があって,これで小動物をとらえる。この膠胞はクシクラゲ類に特有なもので,他の動物には見られない。体の下方の中央に口が開き,口道,食道に続いて胃腔になる。胃腔からは上方と赤道面に管を出し,赤道面の管は枝分れして8本となり,櫛板の並んだ8本の管と連絡する。しかし,ウリクラゲでは網状になっている。体の上端に平衡器があり,これより繊毛溝がのびて各櫛板に連絡し,櫛板の運動を調節する。

 雌雄同体で,卵巣と精巣は櫛板列の内側に沿って帯状に横たわる。受精卵からプラヌラ幼生にならずに,キディッペ幼生となり,その後変態して成体になる。無性生殖の時代がなく,したがって世代交代はしない。

 世界で約140種が知られている。フウセンクラゲHormiphora palmataの体は,長さ1.5~4.5cmで風船形,日本各地に見られる。カブトクラゲBolinopsis mikadoは,長さ10cmほどの卵形で,下方両側に大きな翼状突起があり,ときに大群になる。ウリクラゲBeroe cucumisは,長さ15cmになり,全体が淡紅色。触手をもっておらず,ごくふつうに見られる。オビクラゲCestum amphitritesは,体が帯状で長さが1mになるものもある。暖海性。クラゲムシCoeloplanaの類は幼生時代に櫛板列があるが,成体ではなくなって,海藻やウミケイトウ類,ウニ類,ヒトデ類などの体表の上をはって移動する。コトクラゲLyrocteis imperatorisは竪琴に似た形をしていて,黄色の地に赤褐色の斑点がある。1941年に相模湾の水深70mから初めて得られた。これらの動物は,人間とほとんど関係がない。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クシクラゲ」の意味・わかりやすい解説

クシクラゲ
くしくらげ / 櫛水母
comb-jerry

腔腸動物(こうちょうどうぶつ)門に入れられてその1亜門とされていたが、現在の分類では有櫛動物(ゆうしつどうぶつ)という独立の1門として一括されている海産動物の総称。多くは浮遊性であり、また寒天質に富むため、ヒドロクラゲ類やハチクラゲ類に似ているし、また形態的な共通点も多いが、これらのクラゲ類とは異なる特徴も多い。すなわち、クシクラゲ類でも真の中胚葉(ちゅうはいよう)が形成されず、体は外皮、内皮の2層とその中間の中膠(ちゅうこう)とからなり、また神経系は外皮直下に網目状をなして散在している。しかし、一方ではクシクラゲ類には、普通の腔腸動物にかならずみられる刺胞がまったくみられないこと、体が放射相称ではなく二放射相称であること、体表に繊毛の集まって生じた8列の櫛板(くしいた)があること、すべて雌雄異体であること、発生中にプラヌラ幼生が形成されないこと、などいくつかの著しい特徴がみられる。クシクラゲ類の多くの種類には2本の触手がみられる。フウセンクラゲ、カブトクラゲ、オビクラゲ、ウリクラゲなど、世界の海にプランクトンとして広く分布し、それぞれの体の形からその名がつけられている。クシヒラムシ、クラゲムシ、コトクラゲなどは浮遊性ではなく、海底にすんで匍匐(ほふく)生活を送っており、これらのものの多くは奇妙な形をしており、また成体では櫛板が退化している。クシクラゲ類の系統については学者の見解はかならずしも一致していないが、扁形(へんけい)動物の渦虫類(うずむしるい)となんらかの類縁があるであろうことは否定できない。

[山田真弓]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「クシクラゲ」の意味・わかりやすい解説

クシクラゲ

有櫛(ゆうしつ)動物門に属する無脊椎動物の総称。形はかぶと形,ウリ形,帯状とさまざまだが,卵形のものが多い。体長1.5〜15cm。体はほとんど無色透明で非常にこわれやすい。体表の8列の櫛板が特徴で,これを波状に動かし移動する。雌雄同体でポリプの時期がなく,世代の交代もみられない。ウリ状で触手をもたないウリクラゲ(15cm),長さ1.5〜4.5cmで風船形のフウセンクラゲなどがよくみられる。
→関連項目クラゲ(水母)有櫛動物

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クシクラゲ」の意味・わかりやすい解説

クシクラゲ

有櫛動物」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android