改訂新版 世界大百科事典 「コウチュウ」の意味・わかりやすい解説
コウチュウ (鉤虫)
hookworm
双腺綱鉤虫科Ancylostomidaeに属する線形動物の総称。口に歯牙もしくは歯板を有する寄生虫。同じ漢字で表すが,有爪(ゆうそう)動物のカギムシ(鉤虫)とは別物で,ジュウニシチョウチュウ(十二指腸虫)のことをいう。ヒトに寄生する種類では,ズビニコウチュウとアメリカコウチュウが重要で,日本でもかつて両種による感染の流行があったが,現在では農山村部に散発的に感染者が発見される程度となっている。アメリカコウチュウは主として経皮的に感染し,肺を通過する間に一定の発育を遂げ,小腸に達して成虫となる。一方,ズビニコウチュウは経口感染を主とし,その場合肺に移行することなく成虫になる。成虫の大きさは,両者とも体長10mm,体幅0.5mm程度であるが,小腸粘膜に咬着して吸血し,鉤虫性貧血の原因となる。アメリカコウチュウよりズビニコウチュウのほうが吸血量が多く,約30匹の寄生で貧血症状をおこすという。虫卵は楕円形で,卵殻は薄く無色,糞便中では4~8細胞期まで発育してみられる。両種の駆虫には四塩化エチレン,ブロムナフトール,ベフェニウム剤などが用いられる。両種のほかに,熱帯地方にはブラジルコウチュウやセイロンコウチュウも分布する。前者は鉤虫性皮膚炎(皮膚爬行(はこう)症の一種)の原因となる。イヌやネコにはイヌコウチュウが普通にみられる。
→アメリカコウチュウ →ズビニコウチュウ
執筆者:小島 荘明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報