改訂新版 世界大百科事典 「コウヤマキ」の意味・わかりやすい解説
コウヤマキ (高野槙)
Japanese umbrella pine
parasol pine
Sciadopitys verticillata(Thunb.)Sieb.et Zucc.
ホンマキともいう。日本特産で寺院の境内や庭園にも多いスギ科の常緑大高木で,端正な樹形が美しい。高さ30mに達し,細い枝が短く水平に張るので狭い円錐形の樹冠を形成する。幹の樹皮は赤褐色で細長く裂け,厚い片となってはげる。葉は新枝の上部に10~45本ずつ群がってつく。各葉は螺生(らせい)する鱗片葉の葉腋(ようえき)から生じ,形態的には短枝の上につく長さ8~12cmの狭線形の針葉が2本横に癒合したものと同じであり,両面の中央に縦の溝がある。4月枝端に開花し,雄花は30個ほどが卵形の穂状花序をなす。雌球花には基部まで分離した心皮と苞鱗の対が多数螺生する。翌年の10月に楕円形で長さ6~10cmの球果が熟し,各種鱗(心皮)の内側に6~9個の種子が下向きにつき,種子には両側に翼がある。その特異な形態からスギ科から分けて独立のコウヤマキ科が立てられることもある。長野県南部から近畿地方までと岡山県および広島県西部,四国および宮崎県の北部と中部にやや断続的に分布し,また福島・新潟県境北部に著しい不連続分布がみられる。透水性の良い土壌を好んで各地に純林ができ,とくに木曾ではヒノキ,サワラ,クロベ(ネズコ),アスナロとともに〈木曾五木〉の一つに数えられる。中生代に出現し,第三紀末まではヨーロッパでも分布していたが,それ以後衰退の一途をたどり,現世では日本だけに残ったものである。
材は淡黄褐色,緻密(ちみつ)で木目も通っている。特有のにおいがあるが,水湿によく耐え加工もしやすいので,建築・器具・土木材とし,風呂桶や流し板にも用いる。近畿地方の古墳から出土する木棺はほとんどがこの材で作られていたという。樹皮は槙肌(まきはだ)/(まいはだ)といい,水桶,船板のすきまの詰物に適する。とくに庭園樹としての価値は高い。高野山では霊木として保護し,切枝を仏前に供え,また高野詣のみやげにする。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報