コハク酸(読み)こはくさん(英語表記)succinic acid

翻訳|succinic acid

改訂新版 世界大百科事典 「コハク酸」の意味・わかりやすい解説

コハク(琥珀)酸 (こはくさん)
succinic acid

鎖状ジカルボン酸の一種で,最初に化石樹脂であるコハクの乾留によって得られたのでこの名がある(ラテン語succinumはコハクのこと)。コハクのほか,樹脂,褐炭や二枚貝,藻類,地衣類中にも含まれる。アルコール発酵の際にも少量生成するので清酒の中にも含まれている。分子式HOOCCH2CH2COOH,融点188℃,沸点235℃,比重1.564の無色柱状晶。無臭で特異な酸味を有する。熱水,アルコール,アセトン可溶,エーテル,冷水に難溶。沸点まで加熱すると1分子の水を失い無水コハク酸となる。

 工業的には,ベンゼンを五酸化バナジウムV2O5の存在下に接触酸化して得られるマレイン酸を希硫酸溶液中で電解還元するか,直接水素添加して製造する。生体内では,クエン酸回路など種々の代謝過程の中間体として重要な役割を果たしている。すなわち,α-ケトグルタル酸の酸化的脱炭酸により生成し,コハク酸デヒドロゲナーゼの働きでチトクロム系に電子を伝達し,水素を失ってフマル酸となる。清酒,みそ,しょうゆ,清涼飲料,菓子などの調味料として広く用いられている。コハク酸ナトリウム貝類のうまみ成分であり,グルタミン酸ナトリウムとともに,魚肉ソーセージ,かまぼこなどの調味料として用いられている。また,高級アルコールとのエステルは可塑剤,ラッカー,塗料などに用いられている。なお,コハク酸ニトリル,コハク酸イミド,コハク酸ジアルデヒドなどは,それぞれスクシノニトリルスクシンイミド,スクシンジアルデヒドという。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「コハク酸」の解説

コハク酸
コハクサン
succinic acid

butanedioic acid,1,2-ethanedicarboxylic acid.C4H6O4(118.09).HOOC(CH2)2COOH.こはく,地衣,菌類などに含まれている.フマル酸マレイン酸の水素添加,リンゴ酸のヨウ化水素による還元などによって得られる.また,アルコール発酵でも得られる.無色の柱状あるいは板状結晶.融点185 ℃.1.572.エタノール,メタノール,アセトン,熱水などに可溶,エーテルに難溶.濃硫酸の存在下でアルコールと反応してジエステルが得られる.これはアンモニアと反応してスクシンアミドC2H4(CONH2)2を与える.コハク酸はその沸点235 ℃ まで加熱すると酸無水物である無水コハク酸を生じる.コハク酸のナトリウム塩は貝類のうま味成分であり,調味料に用いられる.[CAS 110-15-6]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「コハク酸」の意味・わかりやすい解説

コハク(琥珀)酸【こはくさん】

化学式はHOOC(CH22COOH。無色の結晶。融点188℃,沸点235℃(分解し無水コハク酸となる)。熱水,エタノール,アセトンなどに可溶。フマル酸,マレイン酸への水素添加かリンゴ酸の還元,あるいは二臭化エチレンとシアン化カリウムよりスクシノニトリル(CH2CN)2を経て,加水分解によりつくる。貝類,清酒などに含まれ,調味料として使用される。(図)
→関連項目化学調味料

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

栄養・生化学辞典 「コハク酸」の解説

コハク酸

 C4H6O4 (mw118.09).HOOCCH2CH2COOH.食品のうま味を構成する物質の一つで,清酒や貝などの味に寄与しているとされる.代謝上も重要な酸で,クエン酸回路を構成する酸の一つ.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報