コハク酸(読み)こはくさん(その他表記)succinic acid

翻訳|succinic acid

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コハク酸」の意味・わかりやすい解説

コハク酸
こはくさん / 琥珀酸
succinic acid

脂肪族ジカルボン酸の一つで、ブタン二酸の別名をもつ。1550年にドイツのアグリコラがこはくを乾留して得たとの記録があることから、この名が与えられている。こはくにはコハク酸誘導体が含まれている。コハク酸は、天然には、二枚貝、地衣類、菌類などに含まれていて、広範囲の動植物に分布しており、貝類のうま味成分として知られている。無色の柱状結晶で、熱水にはよく溶けるが、冷水には溶けにくい。エタノールエチルアルコール)、アセトンによく溶け、エーテルにもすこし溶ける。融点以上の温度に加熱すると1分子の水を失い無水コハク酸になる。工業的にはマレイン酸を水素化して合成する。コハク酸およびそのナトリウム塩は食品衛生法により定められた指定食品添加物であり、食品の味をととのえる調味料や、食品に酸味を加える酸味料として用いられている。コハク酸がよく使われているのは、合成清酒、みそ、しょうゆなどの調味料で、合成酒中には0.08~0.09%使用されている。化粧品の成分としても用いられている例もある。

 生体中においては、代謝過程における酸化還元反応で重要な役割を果たしていて、TCA回路の一員である。TCA回路においては、α(アルファ)-ケトグルタル酸脱炭酸によってスクシニル補酵素A(活性コハク酸)が生成する。これはそのまま、ヘモグロビンクロロフィルチトクロムなどのポルフィリン環の合成に使われたり、ほかにエネルギーを与えて自らはコハク酸に分解したりする。コハク酸はコハク酸デヒドロゲナーゼ脱水素酵素)により脱水素化されてフマル酸になり、チトクロム系に電子が伝達される。

[廣田 穰]


コハク酸(データノート)
こはくさんでーたのーと

コハク酸
  CH2COOH
  |
  CH2COOH

 分子式 C4H6O4
 分子量 118.1
 融点  188℃
 沸点  235℃(無水物になる)
 比重  1.564
 解離定数 K1=1.0×10-4
      K2=5.75×10-6

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改訂新版 世界大百科事典 「コハク酸」の意味・わかりやすい解説

コハク(琥珀)酸 (こはくさん)
succinic acid

鎖状ジカルボン酸の一種で,最初に化石樹脂であるコハクの乾留によって得られたのでこの名がある(ラテン語succinumはコハクのこと)。コハクのほか,樹脂,褐炭や二枚貝,藻類,地衣類中にも含まれる。アルコール発酵の際にも少量生成するので清酒の中にも含まれている。分子式HOOCCH2CH2COOH,融点188℃,沸点235℃,比重1.564の無色柱状晶。無臭で特異な酸味を有する。熱水,アルコール,アセトンに可溶,エーテル,冷水に難溶。沸点まで加熱すると1分子の水を失い無水コハク酸となる。

 工業的には,ベンゼンを五酸化バナジウムV2O5の存在下に接触酸化して得られるマレイン酸を希硫酸溶液中で電解還元するか,直接水素添加して製造する。生体内では,クエン酸回路など種々の代謝過程の中間体として重要な役割を果たしている。すなわち,α-ケトグルタル酸の酸化的脱炭酸により生成し,コハク酸デヒドロゲナーゼの働きでチトクロム系に電子を伝達し,水素を失ってフマル酸となる。清酒,みそ,しょうゆ,清涼飲料,菓子などの調味料として広く用いられている。コハク酸ナトリウムは貝類のうまみ成分であり,グルタミン酸ナトリウムとともに,魚肉ソーセージ,かまぼこなどの調味料として用いられている。また,高級アルコールとのエステルは可塑剤,ラッカー,塗料などに用いられている。なお,コハク酸ニトリル,コハク酸イミド,コハク酸ジアルデヒドなどは,それぞれスクシノニトリル,スクシンイミド,スクシンジアルデヒドという。
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化学辞典 第2版 「コハク酸」の解説

コハク酸
コハクサン
succinic acid

butanedioic acid,1,2-ethanedicarboxylic acid.C4H6O4(118.09).HOOC(CH2)2COOH.こはく,地衣,菌類などに含まれている.フマル酸マレイン酸の水素添加,リンゴ酸のヨウ化水素による還元などによって得られる.また,アルコール発酵でも得られる.無色の柱状あるいは板状結晶.融点185 ℃.1.572.エタノール,メタノール,アセトン,熱水などに可溶,エーテルに難溶.濃硫酸の存在下でアルコールと反応してジエステルが得られる.これはアンモニアと反応してスクシンアミドC2H4(CONH2)2を与える.コハク酸はその沸点235 ℃ まで加熱すると酸無水物である無水コハク酸を生じる.コハク酸のナトリウム塩は貝類のうま味成分であり,調味料に用いられる.[CAS 110-15-6]

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百科事典マイペディア 「コハク酸」の意味・わかりやすい解説

コハク(琥珀)酸【こはくさん】

化学式はHOOC(CH22COOH。無色の結晶。融点188℃,沸点235℃(分解し無水コハク酸となる)。熱水,エタノール,アセトンなどに可溶。フマル酸,マレイン酸への水素添加かリンゴ酸の還元,あるいは二臭化エチレンとシアン化カリウムよりスクシノニトリル(CH2CN)2を経て,加水分解によりつくる。貝類,清酒などに含まれ,調味料として使用される。(図)
→関連項目化学調味料

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コハク酸」の意味・わかりやすい解説

コハク酸
コハクさん
succinic acid

ジカルボン酸の1種。化学式 (CH2COOH)2 。無色結晶。融点 185℃,沸点 235℃ (無水物となる) 。エチルアルコール,アセトン,熱水に可溶,エーテルに難溶。貝,清酒,地衣類に含まれる。琥珀を乾留して得られたのでこの名がある。普通コハク酸ニトリルの加水分解,または酒石酸の発酵によって得られる。コハク酸のナトリウム塩は貝類のうまみ成分であり,人工調味料として用いられる。

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栄養・生化学辞典 「コハク酸」の解説

コハク酸

 C4H6O4 (mw118.09).HOOCCH2CH2COOH.食品のうま味を構成する物質の一つで,清酒や貝などの味に寄与しているとされる.代謝上も重要な酸で,クエン酸回路を構成する酸の一つ.

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