改訂新版 世界大百科事典 「ゴットシェート」の意味・わかりやすい解説
ゴットシェート
Johann Christoph Gottsched
生没年:1700-66
ドイツの初期啓蒙主義の代表的文学理論家,批評家,劇作家。従来の神学的宇宙論,既成の秩序・法則,威圧的な教会権威から,人間精神を〈理性ratio〉の光によって解放しようとする合理主義の精神運動が18世紀ヨーロッパ諸国を席巻した。ライプチヒ大学教授ゴットシェートは,ドイツでその先駆的役割を果たし,健全な悟性の涵養を標榜するC.ウォルフの哲学とフランス古典主義の影響を受けながら,特にボアローの《詩学》(1674)を範として《ドイツ人のための批判的詩学の試み》(1730)を著した。彼の文学観は理性的な合則性,真実らしい明晰な自然模倣とそれによる人心の教化に根ざすものである。したがって想像力,感情,超現実的なものによる文学世界の可能性を主張したスイス派のJ.J.ボードマーやブライティンガーとの論争にまでいたった。演劇においてもノイバー劇団の協力を得ながら,コルネイユ,ラシーヌを範として厳格な三統一の法則の固持と忠実な脚本の再現化に努め,即興的空想的要素の多い道化劇を退けることによって,演劇と文学の一体化を目ざした。〈理性〉を至上とする性急な形式主義のあまり,彼は時代から取り残され,シュトゥルム・ウント・ドラングの若い世代から痛烈な非難さえ浴びるにいたったものの,理性による人間精神の独立と発展を促そうとする努力は,その後の文学思潮と市民意識の形成に新しい地平を切り開いたと言えよう。
執筆者:島田 勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報