フランス革命期の民衆,とくにパリをはじめとする都市の民衆を指し,革命期の民衆運動の基盤となった社会層をいう。この呼称は,1792年以降に,まずパリの民衆を指すものとして用いられ始め,やがて他の都市でも用いられるようになったが,他の都市ではパリにおけるほどは一般化しなかった。サン・キュロットという言葉は,キュロット(貴族やブルジョアのはく膝までの半ズボン)をもたない者,という意味であり,彼らは,ふつうの仕事着である長ズボン(パンタロン)と短い上着をつけ,好んで自由の象徴であるフリジア帽という赤いやわらかな縁なし帽をかぶり,しばしば長剣(サーベル)や槍を携行した。彼らは,貴族や大商人や金融業者や大地主など,総じて〈富裕者〉と呼ばれる階層に対して敵意をもっていたが,社会の最下層をなす乞食や浮浪人などとは一線を画しており,小ブルジョアや自由業者から賃金生活者までを包含する幅広い社会層をなしていた。つまり,多少の財産や道具をもちながら,みずからも労働に従事して家族を養っていることが,サン・キュロットの特徴であった。彼らのなかで賃金生活者の占める割合は10~20%くらいと推定されており,最も多数を占めるのは各種の手工業者と小商店主であり,なかには若干の労働者を雇用する企業家や親方も少数ながら含まれていた。したがってサン・キュロットは一つの社会階級をなすものではなかったが,その大多数は資本主義の発展によってしだいに没落を余儀なくされているような,小規模な手工業者,職人,小商店主,小商人などから成っていた。
このような特徴をもつサン・キュロットは,革命期の民衆運動の担い手として,政治的にはデモクラシー(とくに直接民主政)を推進しようとし,経済的にはみずからの生活を擁護するために統制経済と平等主義の徹底とを要求した。彼らは,人民主権の原理に立って,人民による法律の批准権や議員の監督権と解任権を要求し,また人民による行政府と行政官の監視を要求し,そのような手段によって直接民主政を実現しようとした。とくにパリでは,48の地区(セクシヨン)ごとに設けられた革命委員会や地区総会と各種の民衆結社とが,サン・キュロットの運動の拠点となった。そして彼らの経済的な要求は,所有権に対する生存権の優位の原理に立ち,食糧をはじめとする生活必需品の価格統制の実現や,諸商品の独占や買占めの禁止,労働権と被救済権の確立,などを求め,さらには商工業や農業の経営規模に一定の限度を設けたり,財産の最高限度を設けたりして所有権を制限することを求めるなど,平等主義の徹底を指向していた。こうしたサン・キュロットの政治的・経済的要求は,国民公会内の公安委員会などに権力を集中しようとする革命的独裁の原理にそむき,また経済的自由主義を望むブルジョアジーの利害と対立するものであったから,結局はほとんど実現されないままで終わった。
執筆者:遅塚 忠躬
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フランス革命期の小ブルジョアジーの呼び名。ブルジョアジーから疎外された都市の小商店主、小親方、職人をさし、ひいては農民をも含むこととなる。この名はもともと、当時の上層階級、貴族やブルジョアジーが着たキュロット(半ズボン)ではなく、長ズボンを着ていた小ブルジョアジーが「キュロットなし」つまり「サン・キュロット」という蔑称(べっしょう)を与えられたことに発するのであるが、これを逆手にとってむしろ誇りをもって自称としたもの。
彼らは、雇用労働に頼らない小規模の独立自営を理想として追求するため、封建社会打倒後の新しい社会をつくろうとまっしぐらに資本主義を目ざし、雇用労働を必須(ひっす)の条件とする大規模・大経営コースをとるブルジョア的理想とは対立するものであった。この二つの路線は、自由主義対平等主義、モンテスキュー主義対ルソー主義といった形で表面化するが、ブルジョアジーが指導し、サン・キュロットがそれを推進し、協力するということが続く限り、革命は前進したといいうる。革命期の種々の民衆運動中、1789年7月のバスチーユ攻撃、同年10月のベルサイユ行進、92年8月10日の人民蜂起(ほうき)、93年5月31日~6月2日の蜂起はおおむね両者の協力が成立していたということができるが、91年7月17日のシャン・ド・マルスの虐殺、92年6月20日の蜂起などではサン・キュロットのみの運動で大きな効果をもちえなかった。93年の蜂起で権力を握った山岳派(モンタニャール)が小ブルジョア独裁をとってからは、ブルジョアジーとの協力は破れ、しかも小ブルジョアジーのみを基盤とするアンラジェ(過激派)やエベール派といった分派が生まれ、独裁の必要上これらを抑えざるをえなくなったため、94年7月の「テルミドールの反動」でブルジョアジーが反撃に転じたとき、もろくも敗退することとなる。
[樋口謹一]
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キュロット(膝までのズボンで貴族,ブルジョワの服装)を持たないという意味で,フランス革命期の民衆をさす。手工業者,小商店主,初期工場労働者から構成され,セクションを基盤にして議会とは別個の政治勢力をなした。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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