〈文民統制〉と訳す。一般的には軍人は文民civilianの権力に服従すべきことを意味するが,巨大な常備軍を備える現代国家において,シビリアン・コントロールの意味するところは一義的でない。シビリアン・コントロールの思想と制度は,清教徒革命および名誉革命を経たイギリス,これに学んだ独立革命後のアメリカにおいて生まれた。これらの市民革命は常備軍を自由への脅威とみなし,常備軍の組織と予算を可能なかぎり市民の統制の下において縮小することを国民的合意とした。このために,軍の最高司令官を文民である首相ないし大統領とし,軍を行政府の内部におくとともに,市民の代表たる議会に立法,予算,国政調査権,弾劾権による軍の外在的統制権限を与えたのである。議会による常備軍統制が有効に機能しえたのは,市民革命の思想に加え,軍事技術の未発展の結果市民による統制が専門知識上からも可能であったことにもよる。こうしてシビリアン・コントロールの伝統が築かれたが,帝国主義の時代を迎えると常備軍は必然的に巨大化し,軍事技術的にも高度化していった。20世紀に入るとシビリアン・コントロールの思想にも変化が生じた。それは軍の規模を政治的に抑制することよりはむしろ,膨張する軍事組織を合理的に強化しつつ政治化しないように管理すべきである,との主張であった。今日,シビリアン・コントロールにはこうした伝統的思想と新たなそれとが対立しているが,〈産軍複合体〉といわれる民間と軍による科学・軍事技術の開発と兵器生産体系の形成は,それに密接な利害を持つ議員を生み,議会による軍の統制を形骸化する危機をはらんでいる。日本の自衛隊は,文民から成る内閣と国会による立法,予算などの統制を受けており,法形式的には伝統的なシビリアン・コントロールの制度の下にあるが,上記のような考え方の対立や問題点を免れるものでない。
執筆者:新藤 宗幸
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…自衛隊が徴兵制度を採用するならば,憲法9条や憲法前文の平和的生存権侵害にとどまらず,憲法18条の〈意に反する苦役からの自由〉にも違反すると考えられていたが,政府は1970年の《防衛白書》刊行を機会に態度を改め,徴兵制でも合憲の余地があるとの解釈を示した。(2)自衛隊は制服軍人の独走を防ぐためにシビリアン・コントロール(文民統制)の下にあるとされる。それは,国会による監視,文民で構成される内閣による監督(憲法66条2項,〈国防会議の構成等に関する法律〉),主として文官の官僚で構成される防衛庁内局による統制などから成り立っている原則であるが,制服軍人の軍拡要求をおさえるのは容易でなく,また,日米安保条約による日米両国軍隊の直接的な接触や協力は,日本の憲法や政治では十分にコントロールできない外交上の問題を生みだす。…
※「シビリアンコントロール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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