シュードラ(読み)しゅーどら(英語表記)Śūdra

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シュードラ」の意味・わかりやすい解説

シュードラ
しゅーどら
Śūdra

古代インドにおいて成立した四つの社会階層バルナ)の一つで、上位3バルナに奉仕する者の階層

 4バルナ社会理論においては、シュードラは一生族、すなわち、学問を始めるためのウパナヤナ儀式(入門式)を受けることによって二度目の誕生をもつ必要のない者として、再生族から区別された。古典法典類には、ベーダVedaの詠唱を聞いたシュードラの耳には溶かした鉛を注ぐとされるなど、厳しい差別的な規定がみられる。しかし、実際に規定どおりのシュードラ差別が行われていたのかという点については、かならずしも明確ではない。中世カースト制度においては、農民手工業者など、不可触民以外のすべての直接生産者カーストがシュードラに属するとされた。これらのシュードラの諸カーストの家庭において、バラモンが家庭司祭(ウパーディヤー)として、結婚式などの祭式を行っていたのであるから、古典の規定とは大きく異なっていたのである。

[小谷汪之]

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改訂新版 世界大百科事典 「シュードラ」の意味・わかりやすい解説

シュードラ
śūdra

インドの4バルナ(種姓)の最下位に置かれた隷属民。バルナ制度が成立した後期ベーダ時代にシュードラとして位置づけられたのは,主としてガンガーガンジス川)上流域に進出したアーリヤ人の支配下に入った先住民であった。彼らはエーカジャekaja(一生族)と呼ばれてバラモンの指導するベーダの宗教から除外され,バラモン,クシャトリヤバイシャの上位3バルナ(ドゥビジャdvija(再生族),アーリヤ)から社会生活のあらゆる面で差別を受けた。ヒンドゥー法典の定めるところによると,シュードラの義務は隷属的労働者や職人として上位3バルナに奉仕することであるという。しかし,その後の歴史の過程でシュードラの地位は大きく変化した。後世では農業・牧畜(本来はバイシャの仕事)に従事する者を含む生産大衆がシュードラとみられるようになり,またバラモンの指導するヒンドゥー教の重要な担い手となった。こうした変化とともに,法典に見いだされるシュードラ差別規定の多くは非現実化した。
カースト
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山川 世界史小辞典 改訂新版 「シュードラ」の解説

シュードラ
śūdra

インドのヴァルナで最下位の奉仕者階級。後期ヴェーダ時代アーリヤ人の支配下に置かれた先住民ダーサ(ダスユ)が,隷属民として位置づけられたことが起源とされる。古典では,上位3ヴァルナに奉仕することが義務づけられている。ヴェーダの学習や祭祀を行うことができない一生族とされ,上位の再生族から差別を受けた。4~7世紀になって,農業や牧畜に従事するものがシュードラとみなされるようになり,商人層を除く一般庶民がすべてシュードラに属するという考えに変わった。現在ではみずからをシュードラと自称するカーストは少なく,農耕民,牧畜民,手工業者は多くの場合,クシャトリヤヴァイシャに属すると称する。ただし被差別層の自称としてシュードラが用いられることがある。

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百科事典マイペディア 「シュードラ」の意味・わかりやすい解説

シュードラ

インドのバルナ(種姓)制度の最下級をなす隷属民。漢字では首陀羅と音訳。アーリヤ人のインド侵入によって征服された先住民や,アーリヤ人以外の人びとがこの階級に含まれた。身分的差別に加えて,上3階級は死んでも再生できるが,シュードラは再生できないとされ,エーカジャ(一生族)と呼ばれた。→カースト
→関連項目プルシャ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シュードラ」の意味・わかりやすい解説

シュードラ
Śūdra

インドのカーストのうち,第4番目の最下層のカースト。いわゆる隷属民に相当する。古来インドの法典は,各カーストについてそれぞれ遵守すべき義務を規定しており,シュードラの義務は,上位3カーストの人々に対する奉仕であるとしている。初めはアーリア人によって征服された先住民がその主体であったが,次第に農民や職人をさすようになり,抑圧され差別された不可触民とともに,ヒンドゥー教徒の大多数を占めた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「シュードラ」の解説

シュードラ

カースト,⇨ ヴァルナ

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世界大百科事典(旧版)内のシュードラの言及

【インド[国]】より

…正式名称=インドBharat∥India面積=328万7263km2(ジャンムー・カシミール(12万1667km2)を含む)人口(1996。ジャンムー・カシミールを含む)=9億5296万人首都=ニュー・デリーNew Delhi(日本との時差=-3.5時間)主要言語=ヒンディー語(公用語),英語(準公用語),テルグ語,アッサム語,マラーティー語,ベンガル語,タミル語など憲法にあげられている17の地方の公用語通貨=ルピーRupee国名はヒンディー語ではバーラトBharatという。…

【カースト】より

…インドではカースト集団を〈生まれ(を同じくする者の集団)〉を意味するジャーティjātiという語で呼んでいる。 一方,日本ではカーストというとインド古来の四種姓,すなわち司祭階級バラモン,王侯・武士階級クシャトリヤ,庶民(農牧商)階級バイシャ,隷属民シュードラの意味に理解されることが多い。インド人はこの種姓をバルナvarṇaと呼んできた。…

【黒】より

…さらに進んで,黒を光に対する闇,善に対する悪を象徴する色とすることも一般的で,黒は悪神・悪霊の身色となる。なおインドの4階級(カースト)を象徴する4色(白,赤,黄,黒)のうち,黒は第4のシュードラ(隷属民階級)の色である。【柳 宗玄】
[日本文化と黒]
 古代日本語の色名のうち,抽象的概念を表す記号(色彩の名称とは,本来こういうものであるが)として用いられた語は〈アカ〉〈クロ〉〈シロ〉〈アヲ〉の4種に限られ,これ以外の色名はすべて染料(草木染に使われる〈ムラサキ〉〈ハネズ〉〈ハナダ〉〈アヰ〉など)か顔料(鉱物性着色剤である〈ニ〉〈ソホ〉など)かに由来する,というのが今日の定説になっている。…

【サンスクリット】より

…この言語の担い手は,インダス文明が栄えていた前2000年代の前半に,おそらくこの文明を破壊して北西部からインドに徐々に侵入し,そこでベーダの祭式と文学を発展させた。彼らに征服された色が黒く鼻の低い先住民は,のちにシュードラとよばれ,バラモン(僧侶),クシャトリヤ(王侯),バイシャ(庶民)の下の奴隷階級となった。ベーダ語の話し手の痕跡は,前14世紀ころの小アジアの文献にも認められる。…

【バルナ】より

…(3)バイシャ 農業,牧畜,商業,金貸。(4)シュードラ 隷属的労働や手工芸による上位3バルナへの奉仕。以上の4バルナのうち上位3バルナは再生族(ドゥビジャdvija)と称され,自分のための祭式挙行,ベーダ聖典の学習,布施の三つを共通の義務としている。…

※「シュードラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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