元来は船舶の海上航路のことであるが,有事の際に国民の生存と戦争遂行のため確保しなければならない海上交通路--軍事用語ではSLOC(スロツク)(sea lines of communicationの略)という--の意味で使用されることが多い。資源,エネルギー等の海外依存度の高い国家にとって,海上交通路の安全確保は安全保障上の重要な問題である。シーレーンは,単に船舶の航路と考える場合は海図上の線であるが,海上交通の安全確保のための航路として設定し,防衛の意味を含めて用いる場合は,幅をもった航路帯となる。海上交通保護の方法として第2次大戦までは船団護衛方式が主であった。その後,脅威の対象が水上艦艇から逐次潜水艦と航空機に移行し,ミサイル兵器と偵察衛星等が発達しつつある現在,船団護衛方式のほかに,一定の航路帯あるいは海域を防衛し,その安全海域内を自由に航行させる間接的保護の方式が考えられ,主用される傾向にある。すなわち,シーレーンを中心に幅数カイリから数十カイリ,状況によっては百数十カイリの海域を,水中設置の機器と艦艇,航空機等によって哨戒し,他の対潜・防空作戦等と組み合わせることによって,必要な海域の制海を確保して,海上交通路の安全を確保しようとするものである。1975年3月衆議院予算委員会でこの問題が取り上げられてからシーレーンという用語が一般的に使用されるようになったが,日本はおおむね本土から約1000カイリ程度の海域において必要が生じた場合に航路帯を設けうることを目標として,海上防衛力の整備を進めてきている。
執筆者:田尻 正司
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… しかし,日米安全保障協議委員会が了承したアメリカ軍と自衛隊との間の〈日米防衛協力のための指針〉(1978年11月)以降,上のような政府の説明は疑わしいものといわねばならない。とくに1980年代に入ってアメリカ政府から自衛隊に強く要請された〈シーレーン防衛〉や〈3海峡封鎖〉のような自衛隊による作戦行動は,(1)元来,ヨーロッパ,中東などでの世界的有事の際に日本周辺でアメリカ第7艦隊を守ることを目的として協力を要請されているものであること,(2)〈シーレーン〉は軍事戦略上〈戦線の作戦部隊と根拠地を結ぶ兵站連絡海上交通路sea lines of communications〉であり,単なる貿易航路帯を意味するものではないこと,などを考慮すると,これを受け入れるならば憲法解釈上〈個別的自衛権〉に限定している枠を大きく踏み越え,実際上〈集団的自衛権〉を前提とせざるをえないこととなる。
[新日米ガイドライン]
1996年4月の日米首脳による〈安保共同宣言〉は日米安保条約を,これまでの〈極東〉(フィリピン以北)から広げ〈アジア・太平洋地域〉の安定と,国連平和維持活動のための強力な〈同盟〉(the Alliance)へと,条約そのものを改定することなく両国政治首脳レベルで機能を転換した。…
※「シーレーン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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