翻訳|geoid
地球の形としてどのようなものをさすかということについては,さまざまな考え方がある。もっとも素朴には現実の地表面を地球の形としてとればよい。しかし,地表面は山谷の起伏が複雑に分布し,地球の形としてこれを採用するのは不便である。一方,よく知られているように地球は回転楕円体であるとみる考え方がある。ジオイドとはこの中間に位する地球の形を表す概念である。具体的には,地球重力場の等ポテンシャル面のうちで,おおむね海面の平均的な位置に最もよく一致する面をもってジオイドとする。したがって海洋においては平均海水面に一致し,陸上では海面を仮想的にそのまま延長したものとなり,地中をとおることになる。ジオイドは地表面ほど複雑ではなく,また回転楕円体よりは現実の地球に近い,ある程度複雑な形をした一つの曲面となる。ジオイドに相当する等重力ポテンシャル面のポテンシャル値として(6263686±3)×10m2/s2という数値が1979年の国際測地学協会で採択されている。
等ポテンシャル面の一つであるから,ジオイドは水平面であり,測量の標高の基準面となる。すなわち,ジオイド上はどこでも高さ0mであり,ある地点の標高とはその地点とその直下をとおるジオイドとの隔りのことである。このようにジオイドは測地学では測地座標(緯度,経度,標高)の一つの基準面として基本的な重要性をもっている。ジオイドはふつう全地球を代表する回転楕円体(地球楕円体)に対する凹凸でその形が表現される。この凹凸は最大100mの程度である。
地球上の2点間の距離にその区間の楕円体面に対するジオイドの傾き(鉛直線偏差)を乗ずれば,その2点間のジオイドの比高がわかる。そのようなデータを各地点について集めれば,それからジオイドの起伏が求められる。ジオイドの傾きは測地測量による測地経緯度(楕円体上に求まる)と天文観測による天文経緯度(ジオイド基準)とを比較して得られる。
この方法とは別に,重力値を利用する方法が知られている。地球上各地の重力値がわかっていると,というストークスの公式を使ってジオイドの起伏が計算できる。この式でNはある地点のジオイドの高さ,Rは地球の平均半径,rは正規重力,S(ψ)はストークス関数と呼ばれる重み関数,ψはその地点から地球上各地点への角距離,⊿gは各地点の重力異常,dσは面積素片,積分は地球全表面にわたって行う。この演算を地点ごとに実行するとジオイドの起伏の分布がわかる。近年,重力測定が容易に行えるようになったので,この方法はひろく採用されている。
さらに新しい方法として人工衛星を利用する方法がある。もし地球が球対称であれば,地球重力場の中を運動する人工衛星は定常的なケプラー運動を続ける。現実の地球は楕円体に近い形をしているうえに細かいジオイドの起伏もあり,これらの影響で人工衛星の運動は複雑な摂動を受ける。たとえば,地球が回転楕円体であるために衛星の昇交点が赤道上を移動し,近地点も軌道上を移動する。また地球に南北非対称性があると軌道離心率や軌道傾斜角が時間とともに変化していく。逆に,これらの変化を観測することにより重力場等ポテンシャル面の形を定めることができる。このようにして求まる等ポテンシャル面のうち海面に最も近接しているのがすなわちジオイドである。図1に示したジオイドの凹凸は人工衛星の軌道解析から得られたものである。この方法では細かい凹凸が平滑化され大局的な形が求められる。一方,図2は重力分布から求めた日本周辺のジオイドの起伏で,凹凸がよく表れている。日本海溝に沿うジオイドの深い谷が特徴的である。同様な谷は南西諸島海溝沿いにもある。また,山岳部でジオイドが盛り上がっているようすも表れている。
執筆者:村田 一郎
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地球の形を代表するものとして思考的に定められた面。これは地球に対して固定した滑らかな閉曲面で、ほぼ地表表面に近いところを通っている。測地学的には「地球を囲む等ポテンシャル面のうちのある特定の一つ」と定義される。これをわかりやすくいうと、ジオイドとして、海上ではほぼ平均海水面に一致する面を、陸地では一般に地面の下になるが、平均海水面の延長として、仮想的に海水面がつくるであろう面を考えればよい。
ジオイドの形を具体的に決めるには、地球表面の重力値をもとにストークス積分といわれる計算をしなければならない。最近では重力測定が広い範囲で精密に実施されているので、人工衛星の運動理論による結果と組み合わせて、かなりはっきりとジオイドの形が求められている。その結果を表すためには、等ポテンシャル面の形を球関数で展開し、その係数の数値を表の形で与えることが行われている。これまでにさまざまなモデルがつくられたが、現在は、たとえばEGM96モデル(Earth Gravity Model 1996)がよく利用されている。それによると、ジオイドにはかなりの凹凸があり、たとえば日本海溝付近は、その周囲と比べて20メートル以上も低い凹地になっている。
[長沢 工]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 地球をとりまく海水面の高さは,潮汐,海流,気圧,風,海水密度などの影響で変わるが,長期間にわたって平均すれば,その平均の海水面は,ほぼ一つの水準面に一致するとみなすことができる。平均海水面に最もよく一致するような一つの水準面をとくにジオイドという。ジオイドは,地球全体としては地軸方向にやや扁平な回転楕円体にきわめて近い形をしている。…
※「ジオイド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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