ケプラーの法則に従う運動をケプラー運動という。太陽系における惑星や衛星などの運動は,ケプラー運動に他の惑星の影響による摂動が加わったものであるが,一般に摂動は微小なので,多くの場合ケプラー運動そのものとみなしてよい。
太陽と1個の惑星のみが存在してしかも太陽も惑星も質点とみなすとき,その惑星の運動を求める問題を二体問題といい,解を厳密に求めることができる。太陽に相対的な惑星の軌道は,太陽を焦点にもつ楕円,放物線,双曲線のいずれかとなる。どれになるかは初期条件によって決まるのであるが,どれであってもこれらを総称して広義のケプラー運動という。その中のとくに楕円軌道の場合がケプラー運動であって,ケプラーの3法則が成立するわけである(ただし第3法則は正しく改良された形で)。なお,第2法則(面積速度の法則)は,広義のケプラー運動でもつねに成立している。
現実には,太陽も惑星も質点ではないし,惑星も多数個あるので,ケプラー運動が厳密に実現されることはない。しかし初めの問題については,幸いにも,天体が球形であればその中心に全質量が集中した質点として扱えることが知られている。さらに,天体の形状が何であれ,天体の大きさが天体間の距離に比べて十分に小さければ,天体をその重心に全質量が集中した質点のように扱えることがわかっている。例えば太陽と地球を考えると,どちらもほとんど球形であって,そのうえ,天体間の距離1億5000万kmに比べて太陽の直径140万kmでも約1/100にすぎない。これらの相乗効果によって,地球の運動を論ずる際に,太陽と地球はどちらも質点と考えてまったく問題はない。他の惑星についても同様である。地球のまわりの人工衛星の運動の場合には,2天体(地球と人工衛星)間の距離は地球の大きさと同じくらいである。それでも,地球がほとんど球形であるために地球を質点とみなすことができる。そしてその際の誤差は0.1%程度である。一方の人工衛星は,その形がどんなに球形からずれていても,その大きさ(1mくらい)が天体間の距離(6400km以上)に比べてまったく問題にならないので,やはり質点と考えてよい。こうして,地球を公転する人工衛星は,0.1%程度の摂動を伴ったケプラー運動となることがわかる。
次に,惑星が多数個存在することの効果を考えよう。実際,太陽のまわりには9個の惑星が公転している。そして各惑星は太陽のほかに自分以外の8惑星とも万有引力による相互作用を行っているのである。このために各惑星の運動は厳密なケプラー運動にならない。しかしここでも,一つの惑星に働く万有引力が相手の質量に比例するために,太陽の引力が他の惑星の引力に比べて圧倒的に大きくなる。太陽の質量が諸惑星の質量に比べて圧倒的に大きいからである。最大の惑星,木星の質量でも太陽質量の1/1000である。こうして他の惑星の存在は,ケプラー運動に対して0.1%程度の摂動を与えることにとどまる。太陽系の外で行われる連星の相対運動もケプラー運動でよく近似される。
執筆者:堀 源一郎
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… 17世紀の初めころJ.ケプラーは火星の観測データを整約して苦心のすえに惑星一般の運動の法則を導いた。ケプラーの法則に従う惑星の運動はケプラー運動と呼ばれ,天体力学で取り扱う天体の運動の基本型となっている。したがって天体力学で最初に論ずるのは万有引力の法則に基づいてケプラー運動を演繹(えんえき)することであり,これを初めて行ったニュートンは天体力学の創始者といってよい。…
…運動の周期はEの関数として一定でない。
[ケプラー運動]
=p,ṗ=-r/r3惑星運動やクーロン力によって束縛された荷電粒子(電子)の運動として古くからその解が知られた基本的な非線形力学系であり,ハミルトン関数H=p2/2-1/rから導かれる自由度3の系である。ポテンシャルが座標ベクトルrの絶対値だけの関数であるため,エネルギー積分H=E以外に角運動量の積分(r×p)2=L2およびr×pの一成分(r×p)z=Lzが独立な運動の定数を形成している。…
※「ケプラー運動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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