生物起源のラミナ(葉理)にとむ堆積構造のことで,1908年にE.カルコフスキが名づけたストロマトリスstromatolithが語源。外観は平坦ないし波型マット状(アルガルマットalgal mat),ドーム状,ノジュール状,球状,柱状といろいろだが,特徴となるラミナ構造は,厚さ0.6~1.0mmの層が重なりあってつくる。全体の厚さや直径は1cm程度のものから1mをこすものまであり変化にとむ。カルコフスキは,動物化石としたが,後にC.D.ウォルコットは藻類の遺骸と考えた。その考えを証明したのが,バハマのアンドロス島の潮上帯~潮間帯にかけて発達する現世の例を報告したM.ブラックである(1933)。ストロマトライトは先カンブリア時代初期から現世まで約35億年間のどの地質時代からも産出するが,化石記録でみるかぎり繁栄時期は4億7000万~16億5000万年前の間である。先カンブリア時代で多細胞生物の出現前,野外で容易に識別できる唯一の化石であり,またそのなかに多数の微化石(バクテリア,ラン藻,菌類,緑藻など)を保存することが多く,先カンブリア時代の化石発見の宝庫となっている。一般に亜潮間帯から潮上帯という極浅海にみられるが,ことに現世のものは,ストロマトライトをつくる藻類をたべ,構造をこわす植食性の穿孔動物,潜穴動物の生息に不適な環境(例えば高塩度の湾,潟,湖)に限り,成長保存されている。地質時代のものでは水深150mに達する例も報ぜられている。
1枚のラミナは藻類の生長の不連続でできる。亜潮間帯の例では,昼間は上方に生長する糸状のラン藻が粘液の助けをかりて堆積粒子をとりこみ,夜になると水平方向に生長する別種のラン藻が,とりこんだ堆積粒子を封じ込み固定する,という昼夜交代で生長する2種の藻類の活動により,堆積粒子の多い厚い層と藻源有機物の多い薄い層の1対の基本的二層構造ができる。普通,石灰質かケイ(珪)質である。この際ストロマトライトの形成に無関係な球形のラン藻や緑藻などもとりこまれる。中生代以前のストロマトライトでは,続成作用により藻類化石が分解破壊されてしまっているのが普通で,また非生物起源で形態が似る構造(例えば鍾乳石)もあるため,古い地質時代のストロマトライトの認定には,産出層をはじめ周囲の地質調査が必要である。かつてクリプトゾーンCryptozoonやコレニアColleniaをはじめとして多くの化石としての学名が与えられてきたが,その性格からいって学名の適用はさけるべきである。
ストロマトライトの形態の多様性は,環境の差が一義的に支配すると考えられている。例えばペルシア湾やオーストラリアのシャーク湾の亜潮間帯から潮上帯にかけては,特徴的な形のストロマトライトで分帯され,ことにアルガルマットのよく発達する潮間帯上部は3~4帯に細分されている。ペルシア湾の潮上帯の堆積物はアラビア語でソールトフラット(塩水が一時的に蒸発乾固したあとにできる平地)を意味するサブハsabkhaとよばれるが,表面から数十cm下には,かつて潮間帯であったころのアルガルマットが連続して追跡できる。一方,形態の多様性を藻類の種類の差とする意見もあり,この考えにたって,先カンブリア時代の地層の示準化石として大陸間の対比につかう試みもなされている。古生代のストロマトライトのつくる礁構造に伴い,ミシシッピバレー型鉛・亜鉛やザンビア・コッパーベルトの銅のように,堆積性層状硫化鉱床の胚胎することがあり,探鉱に役立てられている。ストロマトライトは,日本でも関東・中部・中国地方の古生代石灰岩および九州北部の中生代の地層から産出の報告がある。
執筆者:小西 健二
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生物起源の堆積(たいせき)構造をもつ岩石の一種。石灰質か珪(けい)質で、厚さ数マイクロメートルから数ミリメートルの葉理からなる。形態はマット状、ドーム状、球根状、柱状など変化に富む。大きさは数ミリメートルのものから数十メートルに達するものまである。多くのストロマトライトは藍藻類(らんそうるい)(シアノバクテリア)により形成される。しかし、藍藻類以外の微生物がその形成に重要な役割を果たしているものもある。ストロマトライト特有の葉理は、藍藻類の成長速度や構成種、供給される砕屑(さいせつ)物の種類や量、そして形成環境の周期的変化を反映するものと考えられている。先カンブリア時代から現世まで認められる。西オーストラリアのノース・ポールで発見された約35億年前のフィラメント状バクテリア化石は、ストロマトライトに保存されていた。また、同じく西オーストラリアのハメリンプールでは、現世のストロマトライトが形成されている。
[谷村好洋]
『福田芳生著『化石探検PART1 ストロマトライトから穿孔貝まで』(1989・同文書院)』▽『NHK取材班著『NHKサイエンス・スペシャル 生命40億年はるかな旅(1)――海からの創生』(1994・日本放送出版協会)』▽『熊澤峰夫・伊藤孝士・吉田茂生編『全地球史解読』(2002・東京大学出版会)』▽『酒井治孝著『地球学入門――惑星地球と大気・海洋のシステム』(2003・東海大学出版会)』
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…【千原 光雄】 石灰藻の絶滅生物には,紅藻植物とされるソレノポラ科,エピヒトン科,古代サンゴモ科や緑藻植物とされるレセプタクリテス科などがある。ラン藻植物や緑藻植物の藻体の枯死後に残された堆積粒子がつくるストロマトライトを,非骨格性石灰藻とよび,狭義の石灰藻(骨格性石灰藻)と対応させ,広義の石灰藻に含める意見もある。 石灰藻の遺骸は,化石として保存される機会に恵まれ,密集すれば石灰岩となり,造岩植物として堆積分化作用に大きな働きをする。…
※「ストロマトライト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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