セメンタイト(英語表記)cementite

翻訳|cementite

デジタル大辞泉 「セメンタイト」の意味・読み・例文・類語

セメンタイト(cementite)

炭化鉄Fe3Cの金属組織学上の呼び名。白色のもろい結晶で強磁性を示す。鉄鋼中の重要な成分で、その含有量や形態が鋼や鋳鉄の機械的な性質に影響を与える。

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精選版 日本国語大辞典 「セメンタイト」の意味・読み・例文・類語

セメンタイト

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] cementite ) 炭化鉄の金属組織学上の名称。組成は Fe3C に相当する。白色、斜方晶系結晶。炭素量六・六七パーセントの所で生じる金属間化合物。鉄鋼組織中最もかたいが、きわめてもろい。強磁性を示す。遊離状態では不安定で直ちに鉄と黒鉛に分解する。通常は鉄鋼の共晶成分として存在し、鋼の浸炭熱処理、鋳鉄の黒鉛化などで重要な役割を果たす。

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改訂新版 世界大百科事典 「セメンタイト」の意味・わかりやすい解説

セメンタイト
cementite

鉄Feと炭素Cの化合物の一つで,組成はFe3Cに相当する。結晶構造は斜方晶系で,合金鋼の中で生じる場合には鉄原子の一部がマンガン原子などの他の原子と置き換わることもある。金属光沢をもち,硬くてもろいが,鉄鋼材料の強化に利用される各種の炭化物の中では最も軟らかい。約210℃に磁気転移点(キュリー温度)を有し,室温では強磁性である。炭素鋼低合金鋼高温オーステナイト状態からゆっくり冷却したり,焼入れ後に焼き戻すと生じる。生成条件により板状,針状,球状などの形態をとるが,オーステナイト状態から徐冷したときに生じる板状のセメンタイトとフェライトからなる層状組織はパーライトと呼ばれる。炭素量約20%以上の鋳鋼,鋳鉄では,高温でオーステナイトとともにレーデブライト共晶を生成する。またセメンタイトは分解すると鉄と黒鉛になり,この黒鉛の形状が鋳鉄の性質に影響を与える。のこぎり,のみ,かんななどの材料に用いられる炭素工具鋼などでは,熱処理によって球状のセメンタイトを鋼中に細かく分散させて,材料に硬さとねばさをもたせている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「セメンタイト」の意味・わかりやすい解説

セメンタイト
せめんたいと
cementite

鉄と炭素との化合物(Fe3C)はセメントのように硬いので、セメンタイトとよばれてきた。斜方晶系に属する結晶であり、融点は1250℃、比重7.4、ビッカース硬さ約1300。210℃以下で強磁性を示す。

 セメンタイトは鉄鋼材料の主要な構成相であり、その形態と含有量を適宜に制御することによって鉄鋼材料の性能が著しく改善される。たとえばピアノ線は、炭素濃度が0.8%の鋼を線引き加工したもので、繊維状のセメンタイト結晶が鉄結晶の中に細かく配列している。このピアノ線は強度がきわめて高いので、ワイヤロープなどに使用されている。

 セメンタイトの形態を粒状にすると、鋼の靭(じん)性が向上して、折れにくくなる。橋や車両などに使用されている鋼は、直径約0.3マイクロメートルの微細なセメンタイト粒子を鉄結晶中に分散させたものである。

 また白鋳鉄(はくちゅうてつ)は、融鉄に多量の炭素を溶かし、鋳型(いがた)に流し込んで凝固させたもので、全体の約50%がセメンタイトであり、高硬度部品の材料として使用されている。この白鋳鉄を高温で加熱すると、セメンタイトは不安定な化合物なので黒鉛と鉄とに分解する。この特性を利用して、鋳造の際に微量の球状化剤を加え、約30マイクロメートル直径の黒鉛を鉄結晶中に分散させたものが球状黒鉛鋳鉄であり、通常の鋳鉄よりもはるかに優れた靭性を示す。鉄の炭化物はセメンタイトだけではなく、六方晶系のイプシロン炭化物(Fe2C)なども知られている。

[西沢泰二]

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化学辞典 第2版 「セメンタイト」の解説

セメンタイト
セメンタイト
cementite

鉄炭化物の一種.化学組成はFe3C.格子は斜方晶系,空間群Pnma,格子定数は常温でa = 0.50896,b = 0.67443,c = 0.45248 nm,単位格子中に4個の基本組成を含む.平均線膨張係数は常温で5.87×10-6 deg-1.標準生成エネルギーは常温で18.9 kJ mol-1.常温では強磁性を示し,キュリー点(A0)は215 ℃,磁気能率は1.75μB である.ヤング率は20.1 kg mm-2,ポアソン比0.361,ビッカース硬さは1200~1300である.純粋の鉄-炭素二元系では準安定相であるが,普通,炭素鋼,合金鋼,および鋳鉄中の代表的な組織成分で,その形状,分布は鋼材の性質を大きく左右する.たとえば,パーライトはセメンタイトとフェライトの層状組織である.合金鋼中に現れるFe3C中の鉄の一部を合金元素が置換したFe3Cと同形の炭化物は,セメンタイトと総称する.[別用語参照]鉄炭化物

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百科事典マイペディア 「セメンタイト」の意味・わかりやすい解説

セメンタイト

鉄と炭素の化合物の一つ。組成上はFe3Cに相当。かたくてもろく,常温では磁性が強い。オーステナイト状態の炭素鋼や低合金鋼を焼きなましすると得られ,このとき生じるセメンタイトとフェライトからなる層状組織をパーライトという。鑿(のみ)や鉋(かんな)などに用いられる炭素工具鋼には熱処理によってセメンタイトを細かく分散させ,かたさやねばりをもたせている。
→関連項目白銑

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セメンタイト」の意味・わかりやすい解説

セメンタイト
cementite

鋳鉄や普通鋼に含まれている鉄の炭化物 Fe3C をいう。結晶の形は斜方晶系に属する。室温で HB 800程度のブリネル硬さをもつ。普通鋼は焼入れをしていない場合,このセメンタイトと極微量の炭素を固溶した鉄との二相混合物であるが,これら二つが層状に析出しているのをパーライトと称している。炭素を固溶する限度をこえると鉄中にパーライトが現れ,炭素の含有量が質量百分率で約 0.8%になると全域パーライトの状態になる。さらに炭素量を2%程度まで増やしていくと,パーライトのほかに片状のセメンタイトが現れるようになる。このセメンタイトはパーライトができる前に析出しているので初析セメンタイトという。炭素量を2%以上にするとセメンタイトの生成が困難になり状況によっては黒鉛の晶出もみられ,セメンタイトが存在しないこともある。

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