ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゼレンスキー」の意味・わかりやすい解説
ゼレンスキー
Zelensky, Volodymyr
ボロディーミル・ゼレンスキー。ウクライナの政治家。大統領(在任 2019~ )。元俳優兼コメディアンで政治経験はなかったが,反汚職を掲げて 2019年の大統領選挙に立候補し当選,2022年2月以降のロシアによるウクライナ侵攻に際してはメディアを駆使しながら国民統合と国際社会の支持を訴えるなど強力なリーダーシップを発揮した。
ウクライナ(当時ソビエト連邦)南部の工業都市クリビーイリーフ(ロシア語名クリボイログ)でユダヤ人の両親のもとに生まれる。幼少の頃に父の仕事の関係でモンゴルのエルデネトで 4年間を過ごす。ドニプロペトロウシク州出身者の多くがそうであるように,ロシア語を母語として育ったが,ウクライナ語も英語も話せるようになった。1995年キエフ国立経済大学の地方分校であるクリビーイリーフ経済大学に入学し,2000年に法律の学位を取得し卒業,法曹資格も得る。在学中の 1997年に,故郷クリビーイリーフの住所にちなんだ名のコメディ集団「街区95」を結成,ロシアのバラエティー番組『KVN』(『おもしろいやつらのクラブ』の略)に 2003年まで出演した。同年ゼレンスキーは集団の名称を「スタジオ街区95」に変更し,その後,映画,テレビ番組,舞台などの制作を手がける,ウクライナで最も成功した芸能プロダクションの一つに育て上げた。2012年には大富豪イーホル・コロモイスキーが所有するテレビ局「1+1」と番組共同制作の契約を交わす。2015年秋には 1+1局の政治風刺ドラマシリーズ『国民の奉仕者』に出演,平凡な歴史教師ワシリー・ゴロボロドコが偶然大統領になって権謀術数のうずまく政界と対決する姿が人気を博し,国民から現実の大統領にとの声が上がった。その勢いに乗って,2018年には番組名「国民の奉仕者」を政党登録した。
30人以上が立候補した 2019年3月31日の大統領選挙第1回投票で 30%以上を得票して第1位となり,4月21日の決選投票では得票率約 73%で現職のペトロ・ポロシェンコに圧倒的な差をつけて勝利し,5月20日に就任宣誓を行なった。その後,議会の解散に踏み切り,同 7月21日の選挙で自党を,450議席中 254議席を占める勝利に導いた。ソビエト連邦崩壊後の独立ウクライナにおいて,史上初めて単独政党が過半数を占めることになった。
2019年9月,アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領がウクライナへの武器供与の見返りに,政敵ジョー・バイデンの二男がかかわるウクライナ企業の汚職調査をゼレンスキーに再三迫ったとされる「ウクライナ疑惑」の渦中に一時おかれた。2020年に入ると,新型コロナウイルス(→COVID-19)感染拡大の対応をめぐり地方自治体の首長と対立,10月の地方選挙で苦戦を強いられ,支持率低下が顕著になった。その間,東部ドンバス地方でのロシアを後ろだてとする市民の内乱が,第2次世界大戦後のヨーロッパにおける最大の不安定要因に発展した。
2021年末,ロシアがウクライナ国境付近に軍隊と装備の大規模増強をはかり,2022年2月21日にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州(ロシア語名ルガンスク)の独立を一方的に承認する大統領令に署名した。事態をうけて,ゼレンスキーは全土に非常事態宣言を発令したが,2月24日未明にロシアは「特別軍事作戦」の開始を宣言,ウクライナ国内を目標に巡航ミサイルなどによる攻撃を開始した。民間人多数が巻き込まれため国際社会は対ロシア経済制裁で対抗したが,ゼレンスキーは地対空ミサイルなどの武器の支援継続を強く訴え,ロシアへの対抗姿勢を崩さなかった。
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