日本大百科全書(ニッポニカ) 「タテハチョウ」の意味・わかりやすい解説
タテハチョウ
たてはちょう / 蛺蝶
昆虫綱鱗翅(りんし)目タテハチョウ科Nymphalidaeの総称。タテハチョウという種は存在しない。
タテハチョウ科に属するチョウは一般に中形で、日本産で最大の種はオオムラサキ、最小の種はアカマダラである。色彩・斑紋(はんもん)および翅形の変化に富む。ジャノメチョウ科、マダラチョウ科、テングチョウ科と同じく前脚(ぜんきゃく)は種々の程度に退化し、胸部の下に畳み込まれて物に止まる場合には使用されず、また蛹(さなぎ)は尾端で垂下する(垂蛹(すいよう))。
[白水 隆]
分類
世界に産するタテハチョウ科は、普通、12の亜科に分類されるが、日本にはそのなかの9亜科を産する。
(1)フタオチョウ亜科Charaxinae この亜科の種はアフリカ、中・南アメリカ、東南アジアの熱帯から亜熱帯地方がその分布の中心。日本には沖縄本島にフタオチョウの1種のみが産する。体は太く強剛、後ろばねに普通2本の尾状突起がある。幼虫はコムラサキ亜科の種に似た「ナメクジ状」、頭部の1対の突起は幅広くその先端は分岐する。蛹は「だるま形」で丸く、背面中央を縦走する顕著な稜(りょう)がない。
(2)コムラサキ亜科Apaturinae この亜科の分布の中心は東アジアの温帯から暖帯・東南アジア、北・南アメリカにもかなりの種類を産するが、アフリカには1種を産するのみ。日本産は3属4種。尾状突起はない。幼虫は「ナメクジ状」で、頭部には分枝をもつ1対の角(つの)状突起があり、尾端は二叉(にさ)する。蛹は左右に扁平(へんぺい)、背面中央を縦走する顕著な稜がある。
(3)イシガケチョウ亜科Marpesiinae 東南アジア、アメリカ大陸の熱帯から亜熱帯が分布の中心、アフリカには1種を産するのみ。日本産はイシガケチョウの1種のみ。中・小形種。幼虫はコムラサキ亜科に似るが細長く、頭部には1対の角状突起があるが、分枝はなく、尾端は二叉しない。蛹は左右に扁平、背面中央を縦走する稜があり、頭部に1対の長い棒状突起があり、ややコムラサキ亜科の蛹に似ている。
(4)スミナガシ亜科Pseudoergolinae 東南アジアよりヒマラヤ、東アジアの暖帯に分布する少数の種を含む群で、日本産はスミナガシの1種のみ。幼虫はイシガケチョウ亜科に似て細長く、頭部に分枝を欠く1対の角状突起があるが、腹部背面には突起がない。蛹の形態は特異、中胸背面は平板状に突出し、その先端は鼻状に後方に曲がり、側面から見ると、第2腹節の突出部との間に「釘(くぎ)抜き状」の空間をつくる。
(5)ヒョウモンチョウ亜科Argynninae 多くの種は橙(だいだい)色の地色に黒色の斑点をもち、野獣のヒョウを思わせる色彩・斑紋をもっている。アメリカ大陸、東南アジアにもかなりの種類が分布するが、ユーラシア大陸の寒帯から温帯にもっとも種類が多い。日本産は10属15種。幼虫は細長く、胴部各節に多くのほぼ同形の棘(きょく)状突起がある。蛹にも胸・腹部に突起をもつものが多く、その突起のいくつかは銀白色から黄金色に光ることが多い。
(6)イチモンジチョウ亜科Limenitinae 全世界に広く分布し、日本産は4属11種。日本産に関する限り、前ばねと後ろばねを貫く1本の白帯をもつイチモンジ型と、3本の白帯をもつミスジ型に分けられる。幼虫の胴部の棘状突起の大きさは不同、蛹の形は背・腹面から見ると「バイオリン形」、胸・腹部に突起はない。
(7)タテハチョウ亜科Nymphalinae 全世界に広く分布し、日本の土着種は11属17種。幼虫は細長く、胴部各節に同大の棘状突起がある。頭部には棘状突起をもつものと、もたないものがある。蛹も胸・腹部に突起をもつ。
(8)ヒョウモンモドキ亜科Melitaeinae はねの表面は橙色で多くの黒斑があり、一見ヒョウモンチョウに似ているのでこの名があるが、近い類縁関係はない。ユーラシア大陸の寒帯から温帯、北・南アメリカ大陸に分布するが、東南アジア、アフリカには産しない。日本産は2属3種、すべて1化性で草原性のチョウである。幼虫はタテハチョウ亜科に似て全身に棘(とげ)があるが、蛹は地色白色で、黒色・橙色の斑紋があって、タテハチョウ亜科のものとは異なる。
(9)カバタテハ亜科Biblidinae アフリカ、アジア、アメリカの熱帯から亜熱帯に分布し、日本では1種(カバタテハ)が八重山(やえやま)列島に迷チョウとして飛来する。形態的にイチモンジチョウ亜科に似た点もあるので、イチモンジチョウ亜科内の一群とする学者もある。
[白水 隆]