タデ(読み)たで

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タデ」の意味・わかりやすい解説

タデ
たで / 蓼

広義にはタデ科(APG分類:タデ科)タデ属Polygonumのなかでもっともタデらしい形のペルシカリア節Persicariaの総称であるが、狭義には香辛料に用いるヤナギタデP. hydropiper L.をさす。この節に属するものはすべて草本で、北半球に約100種、日本に20余種ある。葉は互生し単葉で全縁、葉鞘(ようしょう)は筒状。花は両性または単性で、穂状または総状の花序をなし、花被片は5または4枚で、果実期にも宿存して果実を包む。雄しべは4~8本、花柱は2か3で、普通は一部が合着する。柱頭は頭状、痩果(そうか)はレンズ状または三稜(さんりょう)形で熟したのちは花被(かひ)とともに脱落する。

 この節のものは陸地生と水辺生に大きく分けられる。陸地生はすべて一年生で、茎や葉に毛の多いオオケタデ、ニオイタデ、ネバリタデ、オオネバリタデと、茎や葉に毛がないか少ないアイ(タデアイ)、イヌタデアカマンマ)、ハナタデハルタデサナエタデオオイヌタデなどがある。水辺生には多年生で地下茎を引くエゾノミズタデ、サクラタデシロバナサクラタデと、一年生で地下茎を引かないヌカボタデヤナギヌカボヤナギタデ、ボントクタデ、ホソバイヌタデ、ヒメタデ、シマヒメタデなどがある。これらのうち、アイは本州中部以西で栽培されて藍(あい)染めの原料とし、オオケタデは観賞用に庭に植えられる。

[小林純子 2020年12月11日]

 APG分類では、タデ属は多数の属に分割されている。従来ペルシカリア節とされていたものはイヌタデ属Persicariaとしてまとめられた。

[編集部 2020年12月11日]

 ヤナギタデは一年草であるが暖地では多年草となる。日本原産で、ホンタデ(本蓼)、マタデ(真蓼)ともいう。水辺の湿地に生え、高さ50センチメートルほど。葉は互生し先のとがった広披針(こうひしん)形で長さ5~10センチメートル。秋口に白に紅が入った小花をまばらな穂状につける。果実は三角形で黒褐色。葉に辛味があり、香辛野菜とされ、以下に示すいくつかの変種が栽培されている。ベニタデは葉と茎に濃紅紫色の色素がある品種で、植物全体が赤色である。収穫した種子を貯蔵しておき、随時、浅い容器に砂を敷いた床で発芽させ、双葉の開いたとき根元からていねいに切り取って収穫する。ホソバタデは葉が細かく柔らかい品種で、茎葉は紫色を帯びる。アオタデは葉が緑色の品種である。アザブタデも葉が緑色の品種で、江戸時代から江戸の麻布あたりで栽培され、エドタデともよばれ、全体に小形で、葉もやや細く、枝葉が密につく。アザブタデのうち、とくに葉の細い系統はイトタデとよばれる。

[星川清親 2020年12月11日]

食品

茎葉に辛味成分を含み、和風香辛料として用いられる。辛味は刺激的で、香りも特有の芳香があるが、諺(ことわざ)に「蓼(たで)食う虫も好きずき」といわれているように、この辛くてにおいのあるタデにも虫がつく。ベニタデやホソバタデは、美しい紅色を生かしてタイやヒラメなど白身の魚に、またアオタデは淡緑色の新鮮な感じの色合いから、赤身の魚の刺身に添えられる。これらは、きわめて日本的な繊細な感覚によるスパイスの使い分けといえる。アオタデの葉や若芽を姿のままか刻んで、またはすりつぶして、酢と混ぜ合わせたたで酢は、焼き魚、とくにアユの塩焼きには欠かせない。アザブタデの葉は柔らかく、香りも辛味も優れ、薬味としてそばや冷や麦のつゆに浮かべたり、魚料理に添えて用いる。

[星川清親・齋藤 浩 2020年12月11日]

文化史

タデ属は世界に広く分布するが、その葉を食用栽培する国はごく少ない。中国では6世紀の『斉民要術(せいみんようじゅつ)』に、蓼を栽培し、若い葉を漬物(菹(そ))に、蓼を湯に入れ、塩を加えた汁にカニを漬けて保存食にするなどと記述されている。日本でも奈良時代すでに栽培されていた形跡が『万葉集』にみられる。「わが屋戸の穂蓼(ほたで)古幹(ふるから)採(つ)み生(おお)し実になるまでに君を待たなむ」(11巻)。『延喜式(えんぎしき)』にはタデの漬物(蓼(たでそ))と干蓼が載る。江戸時代も漬物にされ、貝原益軒(かいばらえきけん)は『菜譜』(1704)で、「菜中のかくべからざる物也(なり)」と述べた。また、タデは酢とあわせ、食用にされ、「蓼酢(たです)もいけぬやつ」(蓼酢でも食べられない、煮ても焼いても食べられないと同義)という諺(ことわざ)を生んだ。いけ花の利用は少ないが、『抛入花伝書(なげいればなでんしょ)』(1684)には「葒草(けたて) 蓼也下品なる草なれどもなげ入れにおかしきもの也」と出る。これは江戸の初期に中国から渡来したオオケタデであろう。

[湯浅浩史 2020年12月11日]


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改訂新版 世界大百科事典 「タデ」の意味・わかりやすい解説

タデ (蓼)
Polygonum

狭義にはヤナギタデをさし,広義にはタデ科タデ属Polygonum(英名smartweed,knotgrass,knotweed)のヤナギタデに類似した植物(イヌタデサクラタデオンタデなど)を総称する。

 〈蓼食う虫も好き好き〉の語源となった葉の辛いヤナギタデP.hydropiper L.(英名water pepper)はタデ科の一年草で,マタデ,ホンタデとも呼ばれ,葉の辛い真正のタデを意味する。茎は直立し,高さ30~80cm,無毛で分枝する。葉はヤナギの葉に似て長さ5~10cm。葉鞘(ようしよう)は筒状で縁毛があり,4~5個の閉鎖花を包む。花期は7~10月。花は枝先にやや疎な穂状につく。花被片は5枚,淡紅白色,長さ2mm。おしべは6本,花柱は2本,堅果はレンズ形で長さ3mm,開花後に4~5mmに生長した花被片に包まれるので,水面に落ちてもしばらく浮かび,水散布される。水中でも盛んに発芽し,冠水した葉は水中でも光合成できるので,水位が不規則に変動する水辺に多く生える。日本全土,北半球の温帯から熱帯にかけて広く分布する。日本では栽培化したムラサキタデf. purpurascens Makino(ベニタデ),アザブタデvar.fastigiatum Makino,ホソバタデvar.maximowiczii Makinoなどの品種が分化している。葉は香辛料としてタデ酢などに用いられ,紅色のイデインidaeinを含む子葉は,刺身のつまに用いられる。辛味成分はタデオナールtadeonal,ポリゴデオールpolygodial。アジアの照葉樹林帯やインドネシアに同様な利用法や栽培化の例がある。日本では《万葉集》にすでに〈吾が屋戸の穂蓼古幹(ほたでふるから)採(つ)み生(おお)し実になるまでに君をし待たむ〉(2759)と歌われ,古くから利用されていた。ネパールでは魚毒として葉を砕いて川に流し,浮いてきた魚をとる。ヨーロッパでは葉から黄の染料をとり,堅果をコショウの代用にした。民間薬として全草を腫瘍の解毒,利尿,止痢などに用いた。

 ヤナギタデに似たボントクタデP.pubescens Blumeも水辺に生じるが,茎に上向きの短毛があり,葉腋(ようえき)からも花穂を出す。また葉は辛くないのでポンツク(愚鈍)の名がある。

 タデ属Polygonumは全世界に約300種が広く分布するタデ科の大きな属で,水湿地から高山の乾原まで,生態分布域も広い。

双子葉植物。32属800種が全世界に分布する。有用植物にソバダイオウアイなどがある。葉は通常,互生し,単葉,葉柄の基部は茎を包む葉鞘となる。花は小さく,穂状や総状などに集まるか葉腋に束生する。3数を基本とし,花被片は3~6枚で,花弁と萼片とは分化しておらず,萼状か花弁状に着色する。また花被片はしばしば開花後に生長し,膜質や翼状や漿質(しようしつ)となって果実を包み,散布に役だつ。おしべは3~9本。花柱は2~3本。子房は上位で,2~3枚の心皮が合着して1室,1個の胚珠を基生する。果実は堅果で裂開しない。特異な科であるが,ヒユ科やアカザ科,それにナデシコ科に類縁があると考えられている。

 種子はデンプン質の胚乳を有し,ソバやダッタンソバのように穀物的に利用されるものがあり,栽培もされる。有毒なものはあまりなく,若芽や葉が食用になるものも多い。また花被片が宿存するので,種子が完熟するまで花序の美しいものがあり,オオケタデヒメツルソバアサヒカズラなどは観賞用に栽植される。またカンキチクは扁平になった茎を観賞する。ダイオウのように薬用にするものや,アイのように染料にする有用植物も含まれている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タデ」の意味・わかりやすい解説

タデ(蓼)
タデ
Persicaria; knotweed

タデ科の一年草で,穂状の花序をつけるものの総称。多数の種類がある。茎は直立または斜上し,分枝する。葉は互生し,節部に葉鞘と呼ばれる鞘状の托葉がある。サナエタデ (早苗蓼)ハルタデ (春蓼)などは春開花するが多くは夏から秋に咲く。枝先に穂状花序を出した小花を密につける。普通,萼片が白色または淡紅色となり,花弁を欠く。果実は痩果で堅く,宿存萼に包まれる。ヤナギタデ P. hydropiperは単にタデまたはホンタデなどと呼ばれ,水辺に生え特有な辛みがあり,刺身のつまなどに用いられる。イヌタデ (犬蓼)は路傍に最も多くみられ,通常アカノマンマの名で親しまれている。若葉はゆでて食べられる。サクラタデ (桜蓼)は水辺に生え花は最も美しい。オオケタデ Amblygonon orientaleは中国原産で花が大きく美しいので栽培されたが,いまは各地で野生化している。なお,ミチヤナギ属 Polygonumやイブキトラノオ属 Bistortaを含めて広義のタデ属 Polygonum sens. lat.とすることもある。

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食の医学館 「タデ」の解説

タデ

「タデ食う虫も好き好き」のことわざで知られるタデは、日本の伝統的ハーブの1つです。ピリッとした辛みが特徴で、食べると口の中がただれるように辛いことから、「ただれ」と呼ばれるようになり、それが転じてタデになったといわれます。
 タデには食欲増進や抗菌、解熱、利尿などの作用があり、これによって食欲不振、むくみの解消などに役立ちます。
○外用としての使い方
 このほか、煎(せん)じた汁は食あたりに、絞り汁は虫刺されや打ち身、ねんざ、皮膚病などに効果があります。
○食品としての使い方
 タデはおもに和食の薬味に使われます。辛みが強い紅タデは、刺身のツマにするのが一般的です。
 また、タデ酢には、辛みのやわらかい青タデがよく使われます。日持ちしないので、購入後は早く使いきりましょう。

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百科事典マイペディア 「タデ」の意味・わかりやすい解説

タデ(蓼)【タデ】

ヤナギタデ,マタデ,ホンタデとも。日本全土,北半球の温〜暖帯に分布するタデ科の一年草。高さ40〜80cm,葉は互生し,披針形〜長卵形でヤナギの葉に似る。夏〜秋,細長い花穂を出し,まばらに赤みを帯びた小さな花をつける。全草に特有のかおりと辛みがある。アオタデ,ベニタデなどの栽培変種があり,アオタデは葉を細かく切るか,すりつぶして酢であえ,タデ酢としてアユ料理に,また,炒(い)って汁の実などとし,ベニタデの芽は刺身のつまとする。なお,広義にはタデ科タデ属の総称でもある。

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栄養・生化学辞典 「タデ」の解説

タデ

 [Parsicaria hydropiper].タデ目タデ科イタドリ属の一年草.食用にする.

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世界大百科事典(旧版)内のタデの言及

【イヌタデ】より

…【土屋 和三】。。…

※「タデ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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