タマバチ(読み)たまばち(その他表記)gall wasp

翻訳|gall wasp

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タマバチ」の意味・わかりやすい解説

タマバチ
たまばち / 癭蜂
gall wasp

昆虫綱膜翅(まくし)目タマバチ科Cynipidaeの昆虫の総称体長5ミリメートル以下の小さなハチで、その多くは植物の組織に寄生してゴール虫こぶ)をつくり、その中で成育する。寄生する部位も根、葉、若芽、若枝、花などいろいろである。ゴールをつくるハチを作癭(さくえい)バチとよぶ。このゴールに寄生するタマバチもいるので、これを寄居バチ(ききょばち)とよぶ。この作癭バチや寄居バチは互いに密接な関係をもっているものが多い。人間のセックスの研究で有名になったアメリカの昆虫学者キンゼイの調査によると、作癭バチの86%はクヌギカシワカシなどクエルクス属Quercusの植物に、残りの7%はバラなどのローサ属Rosaに、ほかの7%がキク科に寄生するという。

 タマバチ科のなかには、このほかハエに寄生する種類や、植物寄生のアブラムシに寄生するアブラバチを寄主とするものもある(これをアブラムシの二次寄生バチという)。タマバチにはクリタマバチのように単為生殖によって雌バチばかりで繁殖するものや、単為生殖と有性生殖を繰り返す(世代交代)ものもある。コナラに寄生するナラリンゴタマバチBiorhiza weldiの春のゴールを、ナラメリンゴフシというが、これは有性世代で、一つのゴールから60~70匹ものハチが出てくる。雌だけ出る場合と雌と雄が出てくるゴールもある。産まれてきた雌は交尾後木を降りてコナラの根に産卵する。できたゴールがナラネタマフシで、この中からは無翅の雌バチしか出てこない。このハチが12月の寒い季節に出現し、コナラをよじ登り、小枝の芽に産卵する。そうしてできるのが春のゴールである。

[平嶋義宏]

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改訂新版 世界大百科事典 「タマバチ」の意味・わかりやすい解説

タマバチ (玉蜂)

膜翅目タマバチ科Cynipidaeに属する昆虫の総称。成虫は小型(体長2~6mm)で光沢のある黒色をしている。大部分の種類は植物に虫こぶをつくり,内部の植物組織を食べて発育する。90%近くの種類はナラ類に寄生し,このほかはバラ科,キク科などの少数の植物に寄生する。葉,枝,幹,根,花,実などに,さまざまな形をした虫こぶをつくり,複雑な生活を送る種類が多い。例えばナラリンゴタマバチBiorhiza weldiは,春にコナラなどの枝の先に直径4cm近いリンゴ状の虫こぶをつくり,6月に雌と雄が羽化する。交尾のあと,雌は土に潜って根に産卵する。根の虫こぶは秋には直径1cmとなり,12月になると雌だけが羽化し,木をよじ登って芽に産卵する。この雌には,翅がなく,アリのような形をしている。このような,いわゆる世代交代をするタマバチはたくさん知られている。また,この科にはクリタマバチのような大害虫インクタマバチのような益虫も含まれている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タマバチ」の意味・わかりやすい解説

タマバチ
Cynipoidea; gall wasp; cynipid

膜翅目タマバチ上科に属する昆虫の総称。別名フシバチともいう。大部分は小型のハチで,前胸背の両後側角は肩板に達し,腹部は左右著しく側圧される。触角は折れ曲らない。前翅の径室はほぼ完全である。日本にはヒラタタマバチ科 Ibaliidae,ヤドリタマバチ科 Figitidae,タマバチ科 Cynipidaeの3科が知られている。ヒラタタマバチ科は体長 10mm内外の大型種から成り,キバチの幼虫に寄生する。ヤドリタマバチ科はクサカゲロウ類やおもにヒラタアブ類の蛹に寄生する。タマバチ科は,大多数の種がこの科に属し,植物に寄生して虫 癭をつくる。多くは世代交代を行い,翅のない世代をもつ種が少くない。クリタマバチのような著名な害虫もあるが,タンニンや染料をとるために虫 癭が利用されることもある。

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百科事典マイペディア 「タマバチ」の意味・わかりやすい解説

タマバチ

膜翅(まくし)目タマバチ科の昆虫の総称。体長1〜6mmの微小種ばかりで,黒色または褐色,無翅のものは一見アリに似る。世代交番をする種類では雌ばかりで冬を越す。また常に雌ばかり現れる種類もある。休眠芽,芽,茎,葉などに産卵,産卵部は虫こぶとなる。虫こぶの形は種類により異なり,幼虫はその中で発育。全世界,特に北半球の温帯に多くの種類がある。農林業上の害虫を含み,クリタマバチはその最たるもの。一方虫こぶからタンニンをとるモッショクシバチ(没食子蜂)のような益虫もある。

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