改訂新版 世界大百科事典 「タンチョウ」の意味・わかりやすい解説
タンチョウ (丹頂)
Japanese crane
Grus japonensis
ツル目ツル科の鳥。タンチョウは,アメリカシロヅルとともにもっとも優美な鳥の一つに数えられ,また日本では,長寿やめでたいもののシンボルとして,昔からたくさんの人々に敬愛されている。全長約140cm。全身ほとんど白色で,のど,くび側,次列・三列風切は黒く,額,眼先,頭頂は皮膚が裸出し,頭頂部は赤い(額と眼先の裸出部は黒い)。丹頂の名は,頭頂が赤いことからつけられた。黒色の三列風切は長く,尾羽の上を覆っているので,よく尾が黒いとまちがわれるが,この羽毛の下に真っ白な尾が隠れている。くちばしは比較的長く,緑褐色。脚は黒い。1年目の幼鳥は胸腹部は白いが,頭頂,くび,背は黄褐色で,成鳥と違って頭部の裸出部には羽毛が生えている。中国東北部,ウスリー地方,日本の北海道で繁殖する。大陸のタンチョウは渡り鳥といわれ,朝鮮半島中部や中国東部で越冬するらしいが,北海道のものは留鳥である。大陸のタンチョウはまだ十分に調査されていないが,その数はおそらく1000羽以下と推定され,北海道のものは釧路湿原を中心に分布し,一時は30~40羽にまで減ったが,約600羽近くまで回復した。(1996年末現在)。しかし,江戸時代の末期には,北海道の全土で繁殖していて,関東地方で越冬していた記録が残っている。
タンチョウは,1年を通じて広い湿地や川岸にすみ,繁殖しているつがい以外はふつう小群をつくっている。餌は,湿地や浅い水の中で水草や水生昆虫類,小魚,タニシやカニなどをあさり,畑に出てトウモロコシなどの穀物を食べている。飛翔(ひしよう)力は強く,くびと脚をまっすぐのばし,ゆっくり羽ばたいて飛ぶ。渡りのときのように長距離を飛ぶときは,逆V字形の編隊をつくる。ツル類は,〈ツルのダンス(鶴の舞い)〉や〈鳴き合い〉をはじめ,さまざまなツル類独特のディスプレーを行うが,タンチョウもその例外ではない。タンチョウのダンスは,春先にいちばんよく見られるが,しかし春先だけとは限らない。四季を通じて,成鳥も幼鳥も,また1羽でも,つがいでも,群れでも,ダンスを踊る。このダンスは,翼を広げてピョン,ピョン跳び上がったり,足早に追いかけっこしたり,頭を下げておじぎをしたり,くちばしを空のほうに突き上げたり,草や小枝を拾って空中にほうり上げたりといった動作からなり,幼鳥や1羽の鳥でも行うことから,性的なディスプレーであるよりも,おそらく遊戯の一種と考えられている。鳴き合いは,くちばしを天に突き上げて,夫婦が鳴き交わすディスプレーで,まず雄が一声クヮーと鳴き,すぐ雌がカッカッと続け,それを繰り返す。これは主としてなわばりの宣言である。
巣は湿地の地上にヨシをたくさん集めてつくり,外側の直径1~2m,高さ10~50cmの大きさがある。卵は淡黄褐色に薄い斑点があるが,白いものもあり,1腹1~2個。しかし,2卵の場合でも,雛として育つのはふつう一つの巣から1羽だけである。産卵は4月初めころ,抱卵期間は32~35日。雌雄とも抱卵,育雛(いくすう)し,生まれた雛は翌年の春まで両親と一つの家族群をつくっている。
〈ツルは千年,カメは万年〉のことばのように,タンチョウは長寿の生物の代表とされている。しかし,実際の寿命ははっきりしていない。飼育したものの記録から推察すると,いったん成鳥に達した鳥は,40~70年生きると思われる。1000年にはとうてい及ばないが,鳥類の中では長命のほうである。ただし,ほとんどの動物がそうであるように,野生のものは幼鳥の死亡率が高い。瑞鳥(ずいちよう)として,また姿がよいので,日本画に描かれることも非常に多く,おそらく鳥類の中では画題として1位であろう。なお,タンチョウも他のツル類ももっぱら地上で生活し,ほとんどの種は決して木に止まらない。〈松上のツル〉,あるいは〈ツルの巣ごもり〉というのは,コウノトリやアオサギをツルと見まちがえたのである。タンチョウは1935年に国の天然記念物に,52年に特別天然記念物に指定。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報