改訂新版 世界大百科事典 「ツタ」の意味・わかりやすい解説
ツタ (蔦)
Japanese ivy
Boston ivy
Parthenocissus tricuspidata Planch.
日本の山野に自生するブドウ科の落葉の木本性つる植物。紅葉が美しいので世界的に観賞用に栽培される。夏の葉も観賞するので,キヅタの別名フユヅタに対してナツヅタの別名もある。和名は〈伝う〉に由来したらしい。円形吸盤のついた巻きひげで他の物に吸着し,からむ。葉は有柄で長く,互生で,単葉か分裂して3裂する。質は厚く光沢があって,秋に紅葉し,葉柄を残して落葉し,後に葉柄も落ちる。花は6~7月に短枝の頂芽に花穂をつけ,黄緑色の小花を多く咲かせ,花弁は5枚で雌雄同花。果実は液果で球形,10月ころに結実し,紫黒色で白く粉をかぶる。中に1~4個の種子が入っている。
日本原産で,北海道から九州まで広く分布し,中国大陸にもある。日本で平安時代に甘味料とした甘葛(あまずら)は,ツタ類からとられた。栽培は土質を選ばず,繁殖は実生や挿木でよく活着する。生育は早く,夏から秋の観賞鉢としても作られている。また,コンクリートなどの壁面を緑化する材料に供されているが,ひと夏で約1m2当りを緑化するほどの生長をする。
類似の種にアメリカヅタP.quinquefolia Planch.(英名Virginia creeper,American ivy,ivy vine)がある。原産地は北アメリカで,大正時代に日本に導入されたが,紅葉は日本産のほうが美しい。
執筆者:中村 恒雄
文様
つるの曲線に葉を散らして文様化される。ブドウと同じく唐草文様にも使われるが,ブドウとは葉の形が異なる。古代ギリシア陶器の壺絵の周辺に,多く〈ツタ唐草〉が用いられているが,それらの葉は小さなハート型に描かれる。この葉の様式は,ギリシア以前の古代地中海美術の陶器にも見られる。ツタは日本の文様の中にも多くみえ,秋の風情を表すものとともに描かれる。桃山時代の蒔絵の文様がすぐれている。日本の文様では,つるの動きは規則的でなく,かなり自由で絵画的である。
執筆者:長田 玲子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報