翻訳|Diaspora
本来は〈離散〉を意味するギリシア語。パレスティナを去って世界各地に居住する〈離散ユダヤ人〉とそのコミュニティを指す。1948年にイスラエル共和国が建国されて以来,イスラエル外に住む現代のユダヤ人もディアスポラと呼ばれるが,離散ユダヤ人が,歴史上特に大きな役割を果たしたのは,ギリシア・ローマ時代である。これら離散ユダヤ人は,前6世紀にバビロニア人が捕囚したユダの人々の子孫だけではなく,その後の歴史を通じて,政治的・経済的理由などから各地に散った人々であった。当時最大の離散ユダヤ人コミュニティは,パルティア人が支配するバビロニアにあったが,アレクサンドリアを中心とするエジプトや,小アジア,シリアにも重要なコミュニティが存在した。前1世紀の文書は,ユダヤ人が地中海世界とオリエント各地のどこにでも居住していたことを伝える。
彼らはどこにいても律法を守ることにより,独自のコミュニティを維持した。しかも,離散の地が仮寓の地であることを自覚していたため,努めてエルサレム神殿に巡礼し,エルサレム神殿のために毎年1人半シケルの献金をする習慣を守っていた。彼らのコミュニティの中心は,シナゴーグ(会堂)における礼拝であったが,この礼拝に用いるために,前3世紀ごろ,アレクサンドリアにおいて旧約聖書がヘブライ語原典からヘレニズム世界の共通語であったギリシア語に翻訳された(《七十人訳聖書》)。各地のシナゴーグとギリシア語訳聖書は,1世紀にローマ帝国で起こったキリスト教の急速な伝播を可能にした。ディアスポラ出身の著名なユダヤ人の中には,前5世紀に,エルサレムでユダヤ教団の基礎を確立したバビロニアのエズラ,前1世紀末からエルサレムで活動した当時最大の律法学者ヒレル,アレクサンドリアの哲学者フィロン,キリスト教の使徒になったパウロなどがいた。しかも,後にタルムードはバビロニアで完成されたのである。
→ユダヤ人
執筆者:石田 友雄
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「離散」「散在」を意味するギリシア語。おもにヘレニズム時代以降、パレスチナ以外の地に住むユダヤ人およびその共同体をさす。「離散ユダヤ人」「離散の地」の意にも用いられる。離散ユダヤ人の大部分はヘレニズム・ローマ文明の支配下に置かれ、離散の地の諸国におけるユダヤ人の経済活動は特定の職業に限定されることなく諸分野に及んでいた。彼らはユダヤ教を堅持しながら特異な共同体を組織していたため迫害を受けた。イエスの使徒パウロも離散ユダヤ人の出身であり、初代キリスト教会はディアスポラのユダヤ人とその会堂を拠点として伝道活動を行った。『旧約聖書』のもっとも重要なギリシア語訳『七十人(しちじゅうにん)訳聖書』(セプトゥアギンタ)は、アレクサンドリア周辺に住むディアスポラのためになされた翻訳である。
[高橋正男]
「離散」の意で,主としてヘレニズム時代以後,ユダヤ人がパレスチナ以外の世界に広く移住したことをさす。このディアスポラのユダヤ人を有力な母体として原始キリスト教が伝播した。
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… ペルシア時代以来,多数のユダヤ人が,パレスティナ本国以外の世界各地に居住していた。彼らをディアスポラ(離散民)と呼ぶ。ディアスポラは,ヘレニズム・ローマ時代に大発展を遂げ,1世紀に,その人口は本国のユダヤ人の数十倍に達していた。…
※「ディアスポラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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